ピアノの音色が聞こえる。とてもやさしい音だ。どこからだろうと私は足を速める。
此処はとある音楽会場。本日、全てのプログラムが終わってもう人は残っていないはずだ。
私は今回此処で行われた大会のスタッフで、最後の確認を取っていたところだった。




(きっとホールからだ…)




もう誰もいないはずなのに。そう思いながらその美しい音色を追いかけてホールへと足を向かわせる。
ホールに続く扉を前にすると音は大きくなった。きっとステージの真ん中に設置されてあるピアノを誰かが弾いているのだろう。
一体誰だろう…と思い、そっと扉を開けて中の様子をみる。するとそこに居たのは、同じスタッフの高山くんだった。




(…嘘)




自分で言うのもなんだが、私もそれなりにピアノは弾ける。
とはいっても私は、ピアノより別の楽器を専攻していた。そして、小さい頃はプロを目指していたときもあった。
だが、それだけの実力はなかったのだ。私は既に諦め今の職についている。
しかし、彼のピアノを聞く限り、こんなに上手かったらピアニストなどの夢を諦めるだろうか。
いや、諦めていなくてもどうしてこんな職についているのかもわからなかった。
こんなに上手かったら、今日の大会だって優勝できたと思う。
そもそも、今日の大会はレベルが高かったが、優勝者よりもこの音色はそのうえをさらに行く。
ピアノを弾き終わると、その人は一息を付いた。




パチパチパチ。




私は、拍手を送った。それが礼儀だ。その人は、私の拍手で初めて私がいたということに気づいたみたいだった。




「とても綺麗な音色だったね」
「…いつから?」
「ごめんね。盗み聞きする気はなかったんだけど…」




盗み聞きしたのは悪いとは思っている。でも、とても素敵な音色だったのは本当だ。誰もが聞き入れてしまいそうな音色。それが私の耳元には残って、心がとても晴れる。こんな風に自分も引ければ夢を諦めなかっただろうな。




「…そう」
「高山くんは…ピアニストとしてやっていけると思うよ」
「…それはないね」
「どうして?」
「僕にはその資格がないから」




私と会話をしながらピアノを片付けている。それを見ると、きっと今でもピアノがすきなんだってわかる。資格がないとかいってるけど、きっと立派なピアニストになれるのがわかる。私の家は音楽家の家庭で、私だけが音楽の才能はなかった。ただ、音楽がすきというだけで、才能は全くのゼロ。親は泣いていた。




「…資格がないって言ってるけど十分あると思うよ」
「そうかな…」
「そうだって。あ、だったら高山くんのピアノファン第一号は私ね」
「ちょっと…なんだよ、それ」




向こうは慌てているがそんなの関係ない。私は貴方の音色が好き。やさしい音色が大好き。




「…今度、また聞かせてね?」




私の勝手な押しかけだけど、また今度聞かせてくれるよね?高山くん。私はピアノではないけれど、私もある程度ときがたったら私のヴァイオリン聞かせてあげるからね。まぁ、そのときがくるのは当分先だと思うけど。














ふたりだけの音楽会






2010/3/22(2007/12/29)