仁美からのメールの返事は1通もない。しょうがないと言えばしょうがない。アイツは脆い。だからきっと突然のことで混乱しているのだろう。それに、俺の本性を見てしまったからだろう。とはいっても、アイツが忘れているだけで、俺は昔からこういう性格だ。ただ、学校ではこの性格はいろいろと問題があると思って隠しているだけで、偽りの仮面を被っている。だが、クラスの男子のほとんどは知っているし、他クラスの男子だって、俺との関わりがあるやつはたいてい知っている。
 …そう、俺と誠人が仁美に関わろうとしている人物を牽制したので、全員俺のこの顔を知っている。
 思い返せば、仁美と離れたくない一心で勉強を必死にして、どうにか一緒の高校に入ったけど、仁美は俺の態度を全くなんとも思っていなかったらしい。いくら態度を示しても、なんとも思わない仁美だった。だが、彼女は自分が分かっていないだけでモテるのだ。だったら、周りから固めてやろうと思い、誠人を巻き込んで行動を起こして今の関係を築いた。おかげで、仁美は俺とのことでからかわれているが、仁美へ告白しようとするやつなんて滅多にいない。
 だが、高校に入ってから中学以上にまして、俺に言いよってくる女子が多くて正直気分が悪い。そのせいか、仁美も俺を避けているみたいでショックだった。
 いくら態度で示しても、アイツはなんとも思ってないらしい。周りから俺が好きだということを示しても冗談だと思っているらしい。本当につくづく鈍感なやつだ。こんなに俺が態度で示しても、なんとも感じていないのだ。何年もそんな関係だ。中学時代もアイツは恋愛沙汰には究極的に疎かった。
 だから、プールのときも、仁美が行くと言ったから俺も行くことにした。いくら誠人の策略とは言っても、仁美の水着姿を見てみたかったのだ。それに、仁美と一緒に向かう道中、告白でもしようかと思ったが、やはりできなかった。けど、その僅かな時間はうれしいものだ。他愛ない話でも、仁美とゆっくり話せる機会など少ないからだ。しかし、プールに着くとアイツは俺から離れて行く。それとは反対に、アイツ以外の女子は俺に言いよってくる。俺が一体何をしたとでもいうのか、俺のどこがいいんだ?
 …今まで何度も告白されたことはあったが、好きです、付き合ってくださいとしか伝えない女子が圧倒的に多い。とはいっても、昔から仁美一筋だから全て断っている。そう、仁美がずっと好きだったからだ。
 どうにか女子をかわして仁美が行きそうなところに向かうと、やはり仁美はいた。背泳ぎをしているアイツがいた。仁美に声をかけるためにわざとぶつかると、アイツは俺に驚いた。やっぱり俺を避けているようだった。どうにかアイツと話をと思ったけど、三嶋までいるからか話しづらい。飲食店で少しちゃんとした話ができればと思ったが、無理だった。
 仁美が去った後、すぐに携帯に誠人からのメールが入った。防水携帯のため、プールに携帯を持ってきていたのだ。そのメールをすぐさま確認する。近くにいる三嶋なんか無視だ。
―――今の様子見せてもらった。仁美はどうにもこうにも究極的鈍感だから、やっぱり気づいてもらうとか無理だ。だから、前から言っているように直接言うことを勧める。それより、お前等いい加減くっつけ。お前等に毎回付き合っている俺のためにもさ…一体いつ俺はお前等の保護者を卒業できるわけなの?
 …一体いつ、お前が俺の保護者になりやがった。確かに、誠人には迷惑をかけている。俺もその行為に甘えているのかもしれない。いや、確実に甘えている。誠人は俺が仁美のことを好きだと気付いた最初の人間。それに世話好きからか、何が何でも俺と仁美をくっつけようとしているらしい。アイツと二人で会うといつも言われる。
「お前等、さっさとくっつけ。俺がどんだけ力を貸してやれば気が済むんだよ」
 力を貸してほしいとか頼んだ覚えもないがな。
 メールはまだ続いていた。
―――だから、今日、お前等を二人きりにしてやるから。そんときに告白して来い。それでモノになんなかったら俺はもう知らねぇよ!無理やりというよりは自然な形だから気にするな。あ、男子にはこの話し通しているから心配するな。
 …アイツは勝手なことをしやがって。でも、正直ありがたかった。俺から告白したくても、学校ではなかなかできないし。家が隣だと言っても、アイツと会うことなどほとんどない。家に押し掛けて告白っていうのでも良かったんだが、彰人さんがいる手前、簡単にできない。あの人は油断できないのだ。昔から何かと俺をからかってくる人なのだから。
 想いは伝えた。キスなど半分無理やりだったが、どうしてもアイツの顔を見ているとしたくなったのだ。煽るアイツが悪いのだ。アイツは忘れているかもしれないが、昔感じたアイツの唇の感触をもう1度味わいたかったのだ。アイツは切れていたし、俺のことを嫌いになったのかもしれない。でも、俺は簡単には諦めない人間だ。拒否されてもしつこく付きまとってやるつもりでいる。アイツが俺を好きだと言うまでは、絶対にな。
 だから今日は誠人が用意したセカンドステージ。仁美は俺を警戒して来ないと思うって伝えたのに、仁美の母さん使って強制参加させるところには頭が上がらない。だけど、少し楽しみだった。仁美の浴衣姿など何年ぶりに見るのかわらないくらいだ。1度だけしか見たことはない。でも、その姿は本当に可愛かったことだけは覚えている。誠人と俺と仁美の3人で祭りを楽しんでいた昔が懐かしい。今日はクラスの女子がまたやってくるが、誠人曰く、今日は大丈夫らしい。だが、大丈夫とはどんなことなのかわからなかった。
 仁美からのメール返信はない。まぁ、俺からのメールを確認するはずないだろう。混乱している仁美には、無理だ。でもそこが可愛らしく思える。重要なメールも俺から送っているから何も知らないだろう。だから、今日誠人から連絡がいっているはずだ。そして俺も誠人から17時に仁美を迎えに行くように言われている。アイツのことだから逃げそうだと思ったが、やはり仁美の母親を使って抑えるという。恐ろしい。どんなことがあっても誠人だけは的に回したくない。
 すると、電話が鳴り響く。父も母も出かけていていない。家に居たのは俺1人だけだった。
「ぁ、高志君?久しぶりね。誰だかわかるかしら?」
「…仁美のお母さん?」
 どうして仁美の母さんが電話をかけてくるかわからなかった。
「高志君、ごめんけど、17時じゃなくて16時に迎えに来てくれない?」
「…構いませんが、何かあるんですか?」
 1時間も早く来て何かさせようというのか。でもまぁ、それもかまわない。仁美の近くに居れるならばそれでもいいような気がする。
「えぇ。楽しみに待っててね。それじゃぁ、よろしくね」
 そう言って、電話を切った。仁美の母さんは喜びに溢れていた。だが、最初に受け答えしたよりも、最後の言葉は喜びに溢れていたような気がする。だが、それは仁美を着せ替え人形にできるからだろう。

2009/9/30

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