彰人さんの部屋は仁美の部屋の隣にある。ちょっとだけ、仁美の部屋を覘きたいと思ったが、そんなこと後でバレたら殺されると思ってすぐにやめた。そんな下心がある自体知られたら、怒りもきっと増すだろう。
 ある意味、抑えがたい衝撃を抑え、彰人さんの部屋に大人しく入った。以前入ったとき、目の前には超巨大な仁美の拡大写真が貼ってあって、どれだけ引いたことか…アレから1年くらい経っているが、きっと今でもそうなのだろうと思って目を開けるとそこには仁美ではなく、別の人物の拡大写真だった。
「…長谷川?」
 仁美ではなく、中学から一緒の長谷川の写真が貼ってあた。
 …どういうことだ?彰人さんと長谷川の接点はほとんどないと言っていいはずだ。まぁ、長谷川が此処に遊びに数度来たことがあるのかもしれないし、学校で何処かで接点があったのかもしれない。
 だが、究極的シスコンの彰人さんの部屋にどうして長谷川の写真が…?しかも、写真の中の長谷川は、とても幸せそうな顔だった。
「驚いたか?」
「彰人さん…」
 写真というより、既にポスターに近いが、見入っていたためか彰人さんが部屋に入ってきたのに気付かなかった。彰人さんの顔を見ると、俺に見られたとかそんな驚いた顔はなかった。
「まぁ、こないだまで仁美の写真貼ってあったから、驚くのが当然といえば当然だよな」
「…で、なんで長谷川なんですか?」
「あぁ、俺の彼女だから」
 …って、彼女?
 彰人さんは、仁美命だったけど、女友達とかはたくさんいた。だから、そういう付き合うっていうか真剣な付き合いをした数は少ないはずだ。それに、どうしてよりにもよって長谷川なんだ?そして、いつから付き合ってたんだろうか。夏休み前、長谷川の様子でおかしなところとはなかった。むしろ、彼氏ほしいと呟いていたぐらいだ。
「もうなんていうか、目に見えるところに絶対写真とか飾りたいって思っていたからさ」
 俺の頭の中は今、混乱しまくっている。なんていうか、これが彰人さんのはずなのに、仁美のことを言わない彰人さんなんて彰人さんじゃない気がする。
「…あの、仁美のことは?」
「お前、せっかく邪魔ものの俺がいなくなって嬉しくないのか?高志」
「……」
 その一言で全て察しているということがわかった。俺は返答が出せなかった。ただでさえ、仁美に手を出したら殺されると思っていたからだ。ましてや、彰人さんは、いろんな意味で最強なため、俺が逆らうことなど不可能である。
「…やっと、お前が動いたから俺も本命に告白できたから感謝してんだぜ?でも、行動に出るの遅すぎだ。仁美が鈍感なのもわかっているけど、おかげでどれだけ俺がとばっちりにあったと思ってるんだ?」
 貴方にそんなことを言われても知りません。確かに、仁美に手を出そうとした人に貴方もある程度の鉄斎を入れていたと思いますが…彰人さんにそこまで言われる筋合いはない。ましてや、俺が動いたから本命に告白できたと言われても、俺のことなんか気にせずさっさと長谷川に告白してしまえばよかっただけだと思いますが…
 あえて思っていることを口に出さない。この人に何か意見を言うことなど不可能なのだ。
「すいませんでしたね。ですが、彰人さんの本命が長谷川だったとは知りませんでしたよ」
「まぁそうだろうな。律に告ったとき、律自身が戸惑っていたしな」
「で、返事はどうだったんです」
 まぁ、写真が貼ってあることから簡単に推測できるが…
「もちろんOKに決まっているだろう?俺は、狙った獲物は逃さないのさ」
 確かにそうでしょうね。高校時代、貴方に逆らった人はいませんし、貴方は学校そのものを大きく変えてしまい、いろいろと伝説も残しましたから…そういう人とは知っていますよ。
「そうですか。で、準備とやらをさっさとしてください」
「つれないなーお前も。俺の後、任せられるのお前だけなのにー」
 子供みたいな口調で言われて、頭に来る。増して何を任せるというのだ。
「意味わからないこと言わないでください」
「…仁美のこと頼んだからな」
「ぇ」
「…お前になら、仁美のこと任せられるからさ。俺も、律も誠人も応援しているし、母さんたちなんか既に仁美は将来、お前の嫁って言っているくらいだからさ」
 なんか今、凄いこと言われたような気がするのは気のせいだろうか。あの仁美と彰人さんのお母さん、一体何を考えているのかわからない。
「まぁ、律という愛しい恋人ができたとしても、俺はこれからも妹命だから…仁美に変なことしたら高志であろうと殺すからね」
 やっぱり彰人さんってこういう人だから苦手だ。告白のことはどこから聞きつけて知っているようだけど、キスなんかしたと知られたら本当に殺される。
「っていうことで、お前と言うモデルが手に入ったことは俺も心嬉しい」
「…モデルですか?」
「そう。誠人でも良かったんだけど、誠人が隣人のお前を推薦したからさ。まぁ、今日は誠人の差し金だけど、気にするな。大人しく、俺の実験台になればいい」
 …実験台。その言葉の響きに少し身を引く。実験台って、ただのモデルじゃなかったのですか?
「大丈夫だって。ただ、仁美に合うように浴衣着せるだけだから」
 俺の顔色を見てか、彰人さんは俺を安心させるようにそう言うが、どうにもこうにも納得できない。やっぱり、誠人の野郎が俺を売ったことには変わりがなかった。
「…わかりました」
 つべこべ言っていてもしょうがない。後で誠人を懲らしめる必要があるとは思うが、今はとりあえず大人しくしておこう。
 なんだかんだで、彰人さんが味方ということはなんとなく心強かった。

「あ、俺に恋人がいるってことは、相手言わなければ喋っていいから。今でも後輩からの告白とか多くてしつこくてさ」
 彰人さんは人気があった。それ故しかたないことだろうが…まぁ、この人が仁美と長谷川、命ということはよくわかった。
 そして、俺が懸念していたことは心配なかったようだ。逆に心強い味方ができたのだから。

2010/3/8

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