誠人やクラスの男子が言うには、アイツは私に惚れているらしい。今までの行動を振り返ってもそんな素振りを見たことは一度もないのに、どうしてそう言い切れるのかが不思議だった。いや、というよりはまずはありえないことだからしょうがない。
「信じられない…」
 はっきり言って、頭が痛い。別にアイツが私に惚れているとかそんなところじゃなく、根本的なことがありえなさすぎる。そう、アイツは私に惚れるはずがない。腐れ縁なだけである。
「俺たちの助言で悩んでいる仁美は、可愛いよねー」
「まぁ、仁美は高志とお似合いだから皆手を出さないんだけど、仁美はもててるんだぞ?」
「…ありえない」
 その一言にますます、頭が痛くなる。私は、どちらかというと女友達より男友達のほうが多かった。現に今も、男友達と話している。私以外の女子はアイツの周りを取り囲んでいる。私を含めた女子合計20名のうち本日来ているのは13名。私を除いた12名がアイツ目当てできているのだということがよくわかった瞬間だった。
「ありえるから皆、手を出していないだけだって」
「…証拠は?」
 そういうと、皆黙って顔を見合わせ、呆れた顔をする。そんな顔をされても私は困る。証拠がなければ、確信にはならない。大体、アイツが惚れているという証拠がなければ信じられなかった。それよりも、そんなことありえない。
「あのな、仁美」
「…何」
 誠人と机を向かいあって座っていた私の前に、誠人が乗り出してきた。一体何を言うのかと思えば、証拠などない。と言われた。
「だったら、どうして言い切れるわけ?」
「だから、態度見たらわかるだろう」
「…わかんないって!!」
 わかる人が超能力だと思うんですけど。っていうか、こっちの会話向こうに聞こえてるんじゃないかって思うと怖くてたまらなかった。いくら、女子に囲まれているからっといっても、自分の話をされていたらたとえ聞きたくなくても聞こえてくるというものだ。実際、私は、地獄耳らしく私の近くで誰かが私のことをしゃべると自然と聞こえてくるような耳を持っている。なんともまぁ、良い耳なのか悪い耳なのかよくわからない。
「…まぁ、鈍感だからしょうがないか」
「鈍感とかいうな!!討論しても無駄だから、泳ぎに行ってくる!!」
 私は誠人に告げると、普通の25mプールがあるほうに足を向かわせる。此処のプールはいろいろとある。流水プールを始め、スライダーに波のプールといって海みたいなプールに、幼稚園辞が遊べるような遊具が設置されているプールなどたくさんある。そのなかでも、私は一番シンプルなプールが設置されているプールに向かった。此処は一番人が少なくて泳げるというところが好きだった。それに、入り口から一番遠いプールであり来にくいというのが盲点だと思う。
 私は、プールにつくなりゆっくりと水につかり、頭まで潜る。水が冷たく、ひんやりとする。普通女の子だったら焼けるからとかいって、なかなか泳がないことが多いだろう。または、泳ぐとしても日焼け止めクリームをたっぷり塗ってからのどちらかだ。私はそのどちらでもない。どちらかというと幼稚園児っぽく何もしてないやつ。泳ぐのが好きなやつ。そして、日焼け止めクリームなど水を汚す原因だとしか思ってはいない。
 壁を蹴り泳ぎ始める。最初はのんびりと泳ぐ。というよりも、私はスピードを出して泳ぐよりのんびりと泳いだほうが好きだった。学校ではタイムが必要になるが、タイムなど世の中に必要ではないと感じる。泳げるなら泳げる、それでいいではないかと思う。とはいうものの、私は、タイムは早いほうだった。タイムが遅いで怒られていた子のことを思うとなんだか悲しくなる。別に、タイムなんか関係ないじゃないって先生に向かって言いたい。でも、そんなことはできやしない。皆、先生が恐ろしいからだ。特に体育科の教師陣は些細なことでも怒りを露にする。
「気持ちいー」
 背泳ぎで折り返すと、ボンとぶつかった。やばっと思って、急いで起き上がり謝ることにした。
「すいません。背泳ぎなんかで泳いでしまって…って、何でアンタが此処に?」
 目の前にいるのはアイツだった。どうして此処にいると尋ねたが、そんなことよりもアイツにぶつかったということが恥ずかしくてたまらなかった。さっきまで、女子に囲まれていたくせに!!いきなり、此処に現れるなんて反則だ。それより、どうして此処を選んだ。私と同じで、1番人が少ないから?
「…逃げてきたから」
「あっそ」
 私はその答えを聞くなり、さっさと退散しようとした。すると、アイツはいきなり私の腕をつかんできた。今まで、こんなことなかったために、私は驚き振り返った。
「何?」
「お前、俺のこと避けてないか…?」
「なんで、避けるわけ?避ける理由なんてないし…勘違いじゃないの?」
 私は無理やり腕を振りほどき25メートルプールをあとにする。だが、心臓はバクバクでどうすればいいかわからなく、流水プールに入る。そして、心臓のバクバクが収まるまで、水の流れに身を任せていた。
 なんでアイツがそんなことを言ってくるのかわからなくて、流れながら考えた。

2007/8/8
加筆2009/9/8

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