プール内にあるとある飲食店に移動した私達は、席につく。さぁ、さっさと話してもらおうじゃない。アイツが適当に飲料を買ってきて、テーブルに着く。向こうから話してくると思っていた私が馬鹿だった。一向に話そうとはしない。おごってもらったからいいとしても、いいかげん話してもらわないと困る。5分、10分と時が流れていく。千晶ちゃんは千晶ちゃんでじっとアイツの顔を見ていた。私は、さっさとしてほしいがためにぶつけてみることにした。
「ねぇ、さっさと話してくれない?」
 時間が無駄だと感じたために、私のほうからぶつけた。しかし、沈黙された空間は、嫌悪感ある空間へと変化する。その変化を誰よりも敏感に感じたのは私だ。アイツも千晶ちゃんも澄ました顔をしてこちらを見ている。一体、私の何がいけないのだろう。ただ、アイツが話しがあるっていうから、移動してきただけなのに、どうしてそんな呆れた眼で見られないといけないのか。どうせ、私は鈍感だから気づきませんよ。アイツが何を考えてるかなんて知らないし。内心、そう思っていた。
「…お前ってホント鈍感だよな」
「はぁ?意味わからない」
 さっきの状況からどうしてこんなふうに繋がるかわからない。鈍感って言われるのには馴れてはいる。だが、馴れているからといって、説明されてないことを納得するのには限度がある。
 千晶ちゃんも千晶ちゃんでため息を漏らす。千晶ちゃんにならわかるとでもいうのかな。でも、いいかげんに話しやがれ。それが私の本音だ。一体、いつまでこんな重い空気の中にいればいいやら。ついでに、寒い。タオルか水の中にいたほうが温かい。
「ねぇ、話ないなら…私行くけど?」
 話があるといって、話がないのもおかしな話だと思うけど。
「…そういうわけじゃない。ただ、ちょっと…」
「ちょっと、何?」
 なんだか変な視線を感じている私はさっさと終わらせたかった。というよりも、どうにかしてほしい。本当に痛いんですけど。この視線。これも全て、コイツのせいだ。コイツが話があるっていいやがったくせに、何にも話そうとはしないコイツが全て悪い。そうだ。そういうことにしてしまえ。
「…だから、その」
 どうしても切り出そうとはしないコイツにいい加減呆れる。何をためらっているかわからないが、さっさとしてほしい。もうこちらも我慢の限界というものだ。何か話しがあるのは確かだろう…だったら、今聞かなくてもいいはずだ。
「…はぁ。しょうがないわね。続きは後でいい?」
 もうこんなことにはならないようにとりあえず今は、逃げますけどね。こんな重い空気はまじでごめんだし。
「あっ…あぁ」
 その返事を確かに聞くとさっさと歩いた。アイツの意気地なし。何の話かはっきりしなかったが、何があっても聞きだしてやらないと私の腹の虫が納まらない。だから、私は強行手段を使う。直接会って話すのが嫌なら、間接的な方法があるだろう。どうしてそれに気がつかないんだアイツは。
「仁美。お前、いいのかよ」
「げっ…なんで、いるわけ?」
 何処からともなく、現れたのは、誠人だ。さっきから感じる痛い視線は、コイツからのものだったのか。けど、覗き見なんて、最低なやつ。
「…高志も可愛そうだ」
「あのねぇ。向こうが話があるって言ってきて、話さなかったアイツが悪いの」
 私の言い分だ。立派なものだろう。アイツのほうから話があるって言ってきたのに、何も話さなかったアイツが悪くないなんておかしすぎる。私が悪いっていうなら、理由をいってもらわないと納得できない。
「まぁ、高志も悪いけど…」
 誠人は言葉を濁らせると、私の手首を掴んだ。一体、何事かと思い、どうにか振りほどこうとするが全く動かない。逆に、これが男と女の差というものを自覚せざる得ない状態に陥る。小さいころは私のほうが強かったのに、やっぱり成長するとここまで差が出るものなのか。なんだか、置いていかれているようで寂しい。
「なっ…なに?」
「気づかないお前も少し悪いぞ」
 また、鈍感とかそういう類ですか?
「…そういうけど、私は何に気づけばいいの?私はどうせ鈍感よっ!!」
 はっきり言って、何も分からない。私も鈍感で済ませてしまっているが、誰もが言う。私は気づいていないということ。私は何に気づけばいいのかがわからない。それを誰も教えてはくれない。もし、ヒントでもくれたら答えに導けるのかも分からない。迷宮の闇に溺れている。それはきっと昔からだ。私だけがクリアできない果てのない出口を追い求めるように這っている。
「…仁美」
「なっ、なによ…」
「恋ってしたことある?」
 突然何を言い出すかと思えば、恋だと?恋って…なに、おいしいの?じゃなくて!!どうして、私が恋なんかしなくてはならないのかなぁ。心のそこから笑いがあふれ出してきた。その笑いが抑えきれず、私は笑い出す。周りからしてみれば、突然のことで何のことかわからないだろう。だが、私の腕を掴んだままの誠人はため息を漏らした。
「…なるほど。そういうことか」
「ちょっと、どういうこと?」
「いいや。仁美はおこちゃまだということがよーくわかったから」
「…ちょっと、どういうこと?」
 勝手に納得されていてもこちらがこまる。そもそも子供って…?私だって、貴方達と同じ年だし、精神年齢だって負けてないつもりなんだけど。どうしてそんなこと言われなければならないかわからない。
「…高志も災難だ。お前、俺たちが言ったこと何にもわかっちゃいない。高志がお前のことが好きだということもなんとも思ってないだろう?」
 好きだと…?繰り返し言うが、あり得ない。
「あたりまえっ!!本人から聞かないと私は納得しないっ!!」
 それが普通だ。きっと、それが普通の人間だ。
「…わかった」
「何?その意味深な発言」
 誠人は手を離しながらそういうと、微笑んで私の前から立ち去った。結局何のことかよくわからないままだった。とりあえず、アイツとちゃんと向き合わないといけないのかもしれないということがよくわかる。回りの誰もが私とアイツのことを何かと思っているらしい。その真相がわかっただけでも、前に進めたような気がする。
 空を見上げてみた。スカイブルーが広がっている。決着をつけないといけない。アイツが私のことを好きだと思っているのが本当なら、私はアイツのことをどう思っているかわからないといけない。きっと、答えは私のなかにある。アイツとちゃんと向き合ってはなせばこれからの私たちが決まっていくだろう。
 そう不器用すぎる私達が前に進むためには、向き合うことが必要だ。

2007/12/25
加筆 2009/9/21

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