直接が無理なら間接的に言えばいい。なのに、アイツはそんなことできない。私の家の電話番号だって、知っている。話しがあるなら、さっさと電話してしまえばよかったのに。どうして、今日になって呼び出した?そして、一体何の話があるっていうわけ?
 誠人や他の友人、千晶ちゃんにアイツも口を揃って“鈍感”と口にする。でも、私は鈍感のつもりはない。直接言ってこないアイツが悪いのだから。
「…誠人、アンタ何がいいたいわけ?」
 急に携帯でメールを打っているやいなや、ニコニコ笑顔で気持ち悪い。
「別に。仁美は仁美のままでいればいいよ。俺が、お前達の愛のキューピットになってやるからさ」
 “達”って、私と一体誰のことを指しているのよ…?まさか、アイツか!!つか、何度も言うけど、あり得ないんだよ!!どうして、そうアイツが私が好きだと推測して、勝手に行動しているんだよ。
「勝手なことしないで。言っとくけど、私はアイツのこと好きとか思ったことはないから」
「それは、嘘だろう?」
 すぐさま返答してくる誠人は、メールを打ち終わったのか、携帯を閉じて私のほうを振り向く。他の皆は皆で、何かやっていたから、私達の会話に入ってくることなどなかった。しかし、周りに誰かいると言う状況で話すのは気が引けた。あり得ない話をされても、困るのは私とアイツだ。
「なんで、嘘になるわけ?嘘という証拠は?」
「こうやって、突っかかって来るところが、意識しているって証拠」
「…はぁ?」
 何、その証拠?突っかかって来ることが証拠?私が、アイツを意識してるって?あり得ねぇー!!突然、何を言い出すかと思えば…って、それだけで意識してるとか言われたら、どうなるんだよ。普通、恋バナをされるのが嫌いだっていう人だっているだろう。人の恋バナを聞いて喜んでいるだけなのか。確かに、自分の話よりは、人の話のほうが面白いだろうけどさ。
「ねぇ、それ以上言ったら本当に怒るよ?」
「怒っても構わないよ。仁美が気付かないのが悪い」
 結局、私が悪いのかよ。わかったよ。私が悪いでいいわよ。でもね、これだけは許せない。
「…わかった。気付かない私が悪いってことにしてあげる。でもね、私はアイツのことを何も思ってないから、そこのところは勘違いしないで」
 それだけを誠人に告げ、私は1人プールサイドに向かった。今、1人でいないと冷静な判断ができないと感じたためだ。誠人やクラスの皆が言うように私は鈍感なのかも知れない。いや、全て置いてドジな行動を取ったりしてきた私は、自他ともに認める鈍感であろう。だが、今回だけは、鈍感と言われる筋合いはない。はっきり言って、アイツとは幼馴染でしかない。それ以上でもそれ以下でもない。それだけだ。


「やっべぇ、俺等、遊びすぎたな」
 ようやく帰ろうと言う話になったときは、もう日が暮れようとしていた。朝から一体何時間遊んでいたのかわからないが、まぁ、そこそこ楽しめたと思う。昼には、皆でバーベキューをしたり(お弁当ももちろん食べた)、ゲームをしたりした。こうやってクラスの交流が盛んなことは良いことだと思う。それに、皆仲が良いことにも素敵だと感じる。
「やっぱ、女子を1人で帰すのはちょっと気が引けるから、女子1人につき男子1人か2人付けようか」
 誠人のその言葉に私を除いた女子が全員反応する。そりゃぁ、アイツがもしかしたら家に送ってくれるかもって思うだけで、夢は広がるでしょうね。まぁ、アイツのことを好きでない女子も、好きな男子に送ってもらおうと、思うのが普通でしょうね。でも、今回は、私を除いた12人は、アイツ目当てということが朝わかっているけど。
「んじゃぁ、とりあえず同じ方向のやつが送るってことで」
 ちょっと待て。そんなことしたら、確実に私はアイツと帰ることになるじゃん!ちょっと今、そんなことされたら、他の女子からのリンチが確定してしまう。
 誠人に、帰りはちょっと寄り道しようと思ってたから、別にいらないと告げた。しかし、アイツはすぐさま私の腕を掴む。
「逆にお前の親が心配するだろう。寄り道したいところがあるなら、俺も一緒に行くから」
「つーことで、仁美のことは高志頼むわ」
「あぁ」
 あぁ、最悪。
「何勝手なこと言ってんのよ。わかってんでしょう?私以外はアンタに送ってもらいたいって思ってるって!」
 小声で告げたが、本当のことでも言うのがちょっと気が引けた。でも、事実だ。今も視線が痛い。痛すぎる。特に千晶ちゃんからの視線が痛い。確実に睨んでいらっしゃる。
「知るか。方向的にも俺とお前が一緒に帰って何が悪い。それに、朝も一緒に来た仲だろう?」
 確かに、朝は無理やり連れてこいって言うから、連れてきたわよ。わざわざ、アンタの家のインターホンを押して、アンタのお母さんにわざわざ挨拶もしてやったわよ。久しぶりに会ったもんだから、綺麗になったわねぇーとかちょっと言われて、気が引けたわよ。
 だけど!
「朝は朝!帰りは帰りよ!」
「仁美、喚くな。決定事項だ」
「誠人…アンタ、仕組んだわね?」
 朝から遊んでいるんだから、もっと早くに帰ろうと思えば帰れたはずなのに、こんなに遅くなったのは、コイツがアレしよ、コレしよって言うからじゃない。いや、コイツだけじゃなく、クラスの誰かが言ってたのか?一応幹事だし、そういうのにはなるべく答えようとしてたとかかもしれないけど…仕組んだ以外に考えられない。
「仕組むも何も、お前等家が隣なんだから仕組むことなんかできねぇじゃん。どうせ、一緒に帰ることにならなくても、帰る方向は同じなんだし。どっちにしろ、一緒に帰ることになるんだから、気にするな」
 アンタ、今、トップシークレットの話をしやがったな!!私とコイツが隣の家とか絶対リンチ対象じゃない!何、言ってんのよ!と、そんなことを思っている私とは裏腹に、皆さん、そんなの関係なしの視線でこっちを見ていた。
「別に、慌てなくても…皆さん、知ってますわ。貴方と高志様の家が隣だということも。幼馴染だということも。学校中の高志様に興味がある方は全員知っておられますのに、何を慌てているのですか?仁美さん」
 千晶ちゃんが、あっさりと私の質問に答えてくれた。しかし、どうして知っている。私は誰にも話した覚えはない。知っているのは、誠人とアイツと中学時代の同級生が一部。とはいっても、県トップの学校で、自分が通っていた学校からは一部しか進学していないのに、どうして知ってるんですか?
 …頭痛い。

2009/9/22

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