結局、押し切られる形で、私はアイツと帰ることになった。道中、何もしゃべらない。話があるとは言っていたが、向こうは切り出す様子もなく、ただひたすら歩いていた。家の前に着き、やっぱり感謝の気持ちだけでもと思い、 「ありがとう。送ってくれて」 結局寄り道などせずに帰ってきた。それは、なんとなく、コイツと2人きりでいるのが嫌だったからだ。コイツの話しというのも気になるが、コイツが話さない限り、私から聞くつもりはなかった。何故だか、今日一日で聞かないほうがいいと思ったのだ。それは、ただの感。気になっているけど、話せないのならそれでいいと結論が、最終的に出た。 家に入ろうとすると、ようやくアイツが声をかける。 「仁美っ!」 少し大きな声で驚く。 「…何?」 「昼間、話があるって言ったよな…」 「あぁ…そういえば、言ってたね」 ほんの少し、はぐらかしながら答える。覚えてはいる。でもまさか、こんなタイミングで話そうとするとは思っていなかった。 「単刀直入に言う…お前って頭良いから、俺の行動だけで気付くと思ったけど、誠人に言われたから直接言うことにした」 「ちょっと、誠人が言おうとしていることをアンタが言おうとしているわけ?」 「違うよ。お前が鈍感だから、直接言わないと気付かないってね…」 「はぁ?」 ちょっと待って、何、この展開?少女漫画とかでもベタな展開に進んでいるのは気のせいですか?いや、気のせいじゃない。このままだったら…最後は、まさか… 「俺は、お前が好きだ…言っとくが、嘘じゃないからな。ずっと、好きだったんだ。仁美」 告白。まさか、自分に訪れることになるとは思わなかった。そして、言葉が出てこない。突然のことだ。誠人たちから、からかわれて言われるのには、慣れていた。でも、実際にこうやって言われると、なんて言えばいいかわからない。 「返事はすぐじゃなくていい…お前自身、誠人から言われても全部冗談と思ってたんだろう。だったらなおさら、お前のことだから、心の整理しないと答えが出ないだろう…」 優しい声で言われた。今は確かに返事が出来ない。そんな心境だった。それに、声を発するのが怖かった。アイツはいつもに増して、優しく私に接してた。いつもアイツは、優しかった。ずっと、昔から、傍にいて、私は彼の優しさに触れていた。 「…やっぱ、突然こんな話ししても、お前が困るだけだったな」 「ぁ、えっと…」 確かに、返答に困ってる。 「いつでもいい。俺はお前が好きだ。この先、何があっても、お前のことを好きでいると思う…たとえ、お前が俺のことを嫌いであってもな」 「…っ、なんで?私は…っ!!」 「ずっとお前を見てきた…お前と離れたくなくて、中学の時は必至だった。今でこそ、お前より勉強面は上だけど…仁美という存在は俺の中で重要なモノで、お前を失うのは絶対嫌なんだ」 とても恥ずかしい気分になる。そんな風に見られていたと思われると、顔が真っ赤になってしまいそう。いや、きっと、さっきから真っ赤だろうけど。コイツと違って免疫ないし。 「…話はそれだけだ。たとえお前が俺と付き合うのは無理と言っても、俺はお前のことは諦めない」 「はぁ?」 「好きです。そして、拒絶されても、お前の場合は、理由が不順ってわかってるから」 すると、アイツは自分の家の門を潜る。 「仁美、お前のことは全部知ってんだよ。まぁ、これも誠人や俺がある程度牽制かけてたからなんだけど…」 「ちょっと何言ってんの?」 話が見えないのは、私だけですか?いや、私だけじゃないはずだ!たとえ、この場に私とコイツしかいなくてもだ! 「今のお前に恋愛沙汰は疎く、興味がないってことは、ちゃんと知ってんだよ。俺はな」 にっこりとした笑顔で言われても、私の顔はますます赤くなるばかりだ。 「ちょっと、何よそれっ!!」 何やってんのよ。誠人とコイツはっ!!私は無意識のうちにアイツを追いかけていた。気付けば、足はアイツの家の門を潜り、コイツの肩を掴む。 肩を掴んだはずだったのに、気付けば、私はアイツの腕の中。そして、アイツの顔が近い! 唇と唇が軽く触れた。それを理解するまでに数秒かかった。 ちょっと待って!返せ!私のファーストキス! 「何すんのよ!」 拳を振り上げようとしても、アイツはしっかりと私の両手を掴んでいた。 「…もう遠慮はしない」 「はぁ?」 何が起こっているの?これは、夢なのですか?悪い夢ならさっさと醒めてくれ。 「お前は何があっても俺のものにするから…そのつもりでいろよな」 …何、コイツこんなキャラだったっけ?まさか、裏の顔?つか、今までこんな顔みたことないわよ!しかもなに?何があっても、アンタのものにするだって?あり得ない。笑えない。つか、どうなっているのよ!! するとアイツは掴んだ両手を放してくれた。 「今日のところは、これで勘弁してやるよ?」 「なっ…なっ…」 これでって何?もっと何かすごいことやらかしたい気分なの?プールに行っているときまで冷静だったのに、どうしてだろう。急に頭が回らなくなったじゃない!!しかも、無意識のうちに私はコイツから離れようとしている。一発ぶん殴ってやろうと思っていなのに。 「ごちそうさま」 なんなんだよ!コイツは!!私の知っているコイツは、こんなやつじゃない!!宇宙人によって洗脳されたのか…!! 「じゃぁな。2学期からまたよろしく頼むよ、仁美。まぁ、残りの夏休みも遠慮なく連絡して来いよ。お前と一緒にいられるなら、いくらでも時間を作るからさ」 何、笑顔でいってんの。こんないきなりキスしやがって、しかもなんだよこの俺様風な幼馴染を危険人物と認定せざるえない!いや、たとえ、コイツのことを好きだと仮定しても、こんなやつと付き合う奴なんているわけがない!! 「私は…アンタのこと大嫌いだぁ!」 私は、そう暴言をアイツに吐き捨てて、駆け足で自分の家の中に入る。アイツがあんなやつだったなんて知りもしなかった。ずっと一緒にいたから、なんでも知っている気でいた。でも、実際は知らないことばかりだったということを思い知らされる。 「…馬鹿。返しやがれ」 ファーストキスは神聖なモノだと思っていた。もともと恋愛とかそういうのに疎いのは認める。でも、アイツに奪われる筋合いはなかった。それになんで、唇がこんなにも熱を持っているのかが疑問だった。 2009/9/22 Copyright (c) 2009 Akari Minaduki All rights reserved. |