…プールに行く前までは、いつもの私だった。なのに、今さっき何が起こった!考えたくない。帰ってから速攻、ベッドに横になる。絶対、夢だと信じたい。アイツが私に何をした…!告白?キス?こんなこと学校でばれたら死刑じゃない!!いや、死刑よりひどいことになるのかも…あぁ、学校なんか始まってほしくない! あの日の、プールに遊びに行った日を境にアイツからのメールがしょっちゅう来るようになった。最初のころは、他愛のないメールだった。でも、返信する気にはなれなくて全て無視した。今は、アイツと関わりたくない。受信拒否にしようかと思ったけど、それはやってはいけないと思い、受信拒否の設定をすることはなかった。でも、メールの内容を確認する勇気がなくて、全部無視した。 全てを忘れるために、残っていた宿題をさっさと終わらせる。さらに、夏休み明けのテストに向けて勉強を始めた。何かを忘れるには勉強するしかない。遊ぶしかない。と思ったから、やけになって、勉強をして、遊んだ。 だか、不幸の始まりは、それだけでは終わらなかった。 「仁美、電話よ」 1階から母親に呼ばれる。携帯にではなく、実家にかけてくるやつなんて誰よ、もう…勉強の邪魔しやがって。階段を降り、何故か嬉しそうな顔をしている母から受話器を受け取る。 「うふふ。楽しみだわ」 何故か、母は浮かれている。何かいいことでもあったのかな…?母の変化にちょっと疑問を感じながら電話相手に声を伝えた。 「はい、もしもし?変わりましたけど」 ちょっとキレているのは、しょうがない。実家にかけてくる奴が悪い。 「よっ!元気してるか?仁美」 「はぁ?なんで、アンタが実家にかけてくるわけ?」 電話の主は、誠人だった。いつも携帯にかけてくるやつがどうして今日に限って実家にかけてくる。 「お前が、いくら携帯にかけても出ないから。どうせ、お前のことだから、家から出てないんだろう?高志との一件があってさ」 そういえば、勉強の邪魔されたくなかったから、サイレントマナーにしてたっけ。それより、実家にかけてくるほどの重要な用件って何よ。さらに、アイツとのことをなんでアンタが知っている… 「悪かったわね。それより、なんでアンタがアイツとの1件を知ってんのよ」 「高志から聞いた。まぁ、お前達がようやく動き出したから、俺、お前達の保護者として感動してるよ。うん」 アンタがいつ私の保護者になりやがった。突っ込みどころは置いといて、何でアイツはしゃべっている。それに、何を感動しているわけ?呆れてモノが言えない。 「で、用件は何なの?私、忙しいんだけど」 「あぁ。お前に随分前から、メール送ってんのに返信がないから、直接電話かけたんだよ」 「はぁ?アンタからメール来てたっけ?」 アイツ以外のメールは全部チェックしたはずだけど。 「いや、高志が送った。ぁ、お前、高志と関わりたくなくて、メール読んでねぇんだな。まぁ、可愛らしいことやるんだね。仁美は」 いちいちコイツの反応がムカつくのは気のせいでしょうか。 「悪かったわね。で、何?早く言って」 「あぁ、今日の夏祭りのことだよ」 「…そういえば、そんなものもあったわね」 地元の祭りなど、高校に入学してから行ってない。毎年、家で何もないように過ごしている。小さい頃は、毎年楽しみにしてたっけ。 「んで、クラスの連中とこないだ話したときに、皆で行こうぜーって話しになってさ。で、今回の副幹事が俺なんだけど、やっぱり、女子を連れてくるには高志を引っ張ってくるしかなくてさ」 そこまで、話を聞いた瞬間、あとの話がどうなるかわかった。私は、アイツを釣る餌か!私は、餌になったつもりはないんですけど!誠人の声を遮るように私は伝えた。 「…お断りします」 「まだ、話し終わってねぇだろう」 「こないだと同じで、私に連れて来いって言うんでしょう…」 それ以外、どんな展開があるというのか。いや、これ以上の展開などないとしか思えない。とりあえず、学校が始まるまでは、アイツに会いたくない。学校が始まっても会いたくないが、生憎、クラスメイトだしね…家から出ないのも、家が隣だから、いつ会ってもおかしくないからだし。 「いや、アイツはもう参加決定だからいいんだよ。お前に伝えたいことは、1つだけだから」 「何、さっさと言って…」 それ以外なら、なんでも答えてあげるわよ。何よ、伝えたいことって。 「お前、今回の幹事だから。お前も強制参加ってことで」 「はぁ?いつ、私が幹事になったのよ!千晶ちゃんはどうしたのよ?いつもアンタ達二人じゃない!」 驚きで声が大きくなる。つか、本当にどうして私?幹事と副幹事はいつも誠人と千晶ちゃんがやってたのに、どうして今回に限って私?しかも、幹事?そういえば、さっき誠人は副幹事って言ってたような…でも、私の意見なしに勝手に決めるなんて、そんなの在りなわけ?それよりさ、今思ったんだけど、夏祭りに幹事なんているわけ?全員で集まって、一緒に回るとしても、ほしいものは自分で買えばいいだけじゃない!! 「…いや、今回、三嶋が旅行に行ってるから、参加できねぇんだよ。で、三嶋が指名した代理がお前ってこと」 「千晶ちゃんから、そんな話聞いてない!」 それに、どうして私?千晶ちゃんとそこまで仲良いわけでもないのに! 「あぁ、この連絡も高志からだから。高志のメール読めば、全部書いていると思うけど」 普通、本人から連絡があるんじゃないんですか?どうして、アイツからなんですか?突っ込みたくても、もう疲れるだけだった。 「って、何で幹事がいるのよ?別にいらないじゃない!」 「あぁ。祭りの後に、夏休みの打ち上げやろうって話しになってな。それで、必要なんだ」 そんなことする必要ない。やりたいやつだけで、勝手にやってろ。 「知らないわよ!誠人、アンタ1人でどうにかしてよ!」 電話越しにいる相手にもう、怒りをぶつける。今の私はそれしかできない。もし、目の前にいたら完璧に殴ってる。というか、プールの時もほとんどアンタ1人でやってたじゃない!! 「無理。俺、女子を纏める自信がないわ」 嘘付け!!!もう心の中では叫びまくってる。私だって、纏められる自信ないわよ。ただでさえ、アイツのことで目をつけられているのに…っ!! 「そんなわけだから、よろしく。あと、女子は浴衣着用だから」 「はぁ?浴衣!?それより、私行かないわよ!」 地元の祭りで浴衣なんて恥ずかしいにもほどがあるでしょう!もう少し年齢が低かったら、大丈夫だけどさ。この年にもなって地元の祭りに浴衣?少し大きな祭りならわかるけど、小さな祭りで浴衣?ありえない。 2009/9/25 Copyright (c) 2009 Akari Minaduki All rights reserved. |