「ホント、アイツもようやくってところよね」 私とりっちゃんは、皆とは少し離れた距離を取って話していた。意外と祭りに遊びに来ている人も多いので、ある程度普通に喋っても会話が聞こえる心配はないだろう。 「…それって、私が鈍感すぎって言いたいってこと?」 「ぁ、ようやく自覚した?本当に誰が見ても一目瞭然だったのにねぇ…」 言い返せる言葉がない。 「でも、これからどうなるかはわからない。アンタの気持ちによって決まることだしね」 「……」 何故だろう。りっちゃん、何処か輝かしいというより、生き生きしてるように見えてしまう。そんなに恋バナが好きなの?それより、本当に今後アイツとどう接していけばいいかなんてわからない。ぎこちない関係なんて性に合わないのに… 「仁美は、今まで通りでいいんだよ」 私が思っていたことをズバリと言い当てる。いつもりっちゃんは、そんな感じだった。どうして私が考えていること、思っていることの返答をすぐさまできるのか。まるで、本当の超能力者みたいだと何度思ったことだろう。前にりっちゃんに聞いてみたら、女の直感だという。そんな直感があったら私がほしいくらいだ。だったら、鈍感と言われずに済んだかもしれないと思うと悔いてやまない。 「仁美の気持ちは、仁美の中にある。でも、仁美にとってそれはまだわからない、見えないもの…違う?」 「…そうね」 「アイツは今まで待ったんだから、答えなんかいつまでも待つに決まってる。それに、高志の性格からして諦める筈ないしね」 脳裏に浮かんだのは、あの日の言葉だった。 『たとえお前が俺と付き合うのは無理と言っても、俺はお前のことは諦めない』 アイツは、諦めないと私に告げている。性格からして負けず嫌いだから、りっちゃんの分析は当たっている。 「…りっちゃん、どうすればいいのよ。2学期からっていうより今もだけど、アイツとの間の空気が痛いのよ!!」 ハッキリ言って泣きたい。どうすればいいかなどわからない。 「だから、言ったでしょう。今まで通りでいいって。アイツとしては進展を希望としているだろうけどね。仁美は普通に接してあげればいいと思うけど」 「その普通ができないから悩んでいるんでしょう」 それが出来たら、こんなに悩む必要もないし、アイツを避けるように夏休み勉強をしまくったりしない。自分がこんなにデリケートだったのかと思うと情けなく思ってしまう。 「だったら、付き合えば?」 「…なんでそうなるかな」 アイツのことを恋愛対象とか見れない。というか、恋愛って何って思ってしまう。別に恋だの興味がなかったし、いきなり自分の前に訪れても理解できるわけがない。 「付き合うってそういうもんよ?別に、相手のこと好きじゃなくても付き合ってみて好きになるとかよくあるパターンだし…」 「それ経験談?」 「別にそういうわけじゃないけど。でも、恋愛ストーリーってそんなもんじゃない?それとか最初から実は両想いでしたっていうパターンかな…」 確かにそういうのばっかりだよね。恋愛ストーリーって…現実もそんなもんだと考えていいのかは別としても、今の私の状況はまさに恋愛ストーリーが展開される漫画や小説の中の主人公みたいな気分だ。あぁ、こんなときはどうすればいいのかわからない。こんなことに自分がなるなんて何度も言うが、ありえない。 「仁美がどっちかなんて私は本当に知らないし、これからは仁美が決めればいいの」 「それができないって言ってるのよ」 何度同じことを言えば気が済むのかわからないけど、本当にできたらこんなに悩まない。 「…できないじゃなくて、選べないの間違いじゃないの?」 「え…」 “できない”ではなく“選べない” 確かにそうなのかも知れない。選べない。いや、選びたくない。今までの関係が一気に崩れるような気がしてしょうがない。崩れるのは嫌だ。でも、進むのも嫌だ。今までのままが一番よかった。でも、戻れないということは分かっている。戻れるのならば、とっくに戻っている。時計は進むばかりで戻ることは許されないとわかっている。 返せる言葉がない。当たっている。私は“できない”ではなく“選べない”が答えだった。歩きながらでも、沈黙と言う名の重い空気が私とりっちゃんの間にはある。 「深く考え込んじゃ駄目だよ、仁美」 「…りっちゃん?」 「アンタを追いこむつもりじゃなかったんだけどね…」 りっちゃんは何かを考えているようだったが、私にその内容は検討がつかなかった。 「オイ、お前等なに皆から離れて、話してんだよ」 前からアイツの声が聞こえて、顔をあげると、いつの間にかアイツがいた。 「どっ…どうして、アンタが此処に?」 わざわざ距離を置いてりっちゃんと話していたというのに、そのことを知らないとはいえ、話の邪魔をするなんて最悪野郎としか思えない。 「はぁ?何言ってんだ。クラスの皆で来ているのに、お前等だけ逸れたらいけねぇだろうが!」 「だからってなんでアンタが来るのよ」 噂をすれば現れるとはいうが、どうしてまさにピンポイントで来るのか教えてほしい。アンタが来なければ、もっとりっちゃんと話せていたのだ。りっちゃんには聞いてもらいたいことが山ほどあったのに・…それを潰したコイツは許さない。 「まぁまぁ仁美、落ち着いてよ。つか、高志。仁美がわざわざ距離を置いているのをわかっていながら、こっちに来るかな?それに、ようやくってところ?」 りっちゃん!直球で行きますか!というより、何その意味深な言葉は! 「おまっ…どこでそのことを…!」 「私の情報網を甘く見ないでよ、高志。仁美に関することなら簡単に手に入れられるんだからね…」 つまり、コイツがりっちゃんに喋ったわけではないと…って私のことならなんでも知ってるってこと?私にだって秘密の1つや2つくらいあるってば! 「……誠人か」 「いんや、違うけど」 誠人の野郎でもなければ、誰だ。私も気になる。 「だったら、誰だ…」 あぁ、コイツも怒っているのがわかる。それよりも、誠人でなければ、誰だと言うのだろうか。他に知っている人物がいるようなら、直ちにぶっ殺すしかない。 「ひ・み・つ、だよ」 「ちょっと、りっちゃん!!」 教えないとはどういうことですか?教えてくれたっていいじゃないですか!つか、本当に誰がりっちゃんに教えたのよ!りっちゃんの好物が恋バナだと知って教えたというやつ、絶対に許さない。これから私がどんな目にあうかわからないじゃないの!! 「大丈夫、心配しなくても誰にも言わないから!じゃないと、アンタが死刑になるじゃない」 「…そうして、お願いだから。私のことだけど、りっちゃんが喋りまくらなければ私の命だけは守られるから」 「オイ、俺はどうでもいいってことかよ?」 アンタなんかどうにでもなってよ!私の平和を返せ!アンタのせいで、私の生活が無茶苦茶になるし、今思うと学校でも、何かとアンタが私に構うから、皆に目をつけられていたんじゃない!! 「どうだっていいわよ!アンタには何もわからないのよ!」 あぁ、何故だか泣きたくなる。 「仁美、その…悪かった、な」 その謝罪が何を意味しているか、私には理解できなかった。 「高志も悪いって思うんなら、仁美を守ってやんなさいよ」 「…わかってる。だから、ちゃんと2学期から手を打ってるって」 ちょっと待ってよ。2学期から私の周りに何が起こるっていうのよ?私は平穏な学生生活を送りたいのよ!というより、コイツが生徒会長になるから、学校での関わる時間が思いっきりなくなると思っていたのに、何かあるっていうの? 2009/11/25 Copyright (c) 2009 Akari Minaduki All rights reserved. |