どうやって時間を潰そうかと悩む。皆それぞれがある程度グループを作って行動するみたいだけど、りっちゃんはどうするんだろう。何故か今日もアイツに恋してますよ連中が多くてなんだか居にくい。と言うよりは、居てはまずい気がしてならない。ましてや、一緒に待ち合わせ場所に来た時点で怒りを買っているだろうし…これも全て全部アイツのせいなんだから!
 …このままトンズラしてもいいような気もするけど、22時まで家に入れるつもりがないって本当だろうか。いや、あの母ならあり得そう。だっていつも青春を謳歌しなさいよって言ってたし…あぁ、どうすればいいんだよ!って、りっちゃん何処に消えた!!私のオアシスは何処に!!
「行くぞ…」
「はぁ?」
 気づけばコイツに腕を掴まれて、引きずられるように皆のもとから去った。あぁ、コイツに恋している女子たちからの視線が痛い。
 人混みもうまくあってか、クラスメイトと大分離れるとようやく私を解放してくれた。
「何よ、いきなり!私、帰るつもりだったんだけど!」
 今、コイツと2人きりになるのはなるべく避けたい。また変な意識をしてしまいそうで怖い。というより、どうしてあまり抵抗をしなかったのか自分でも疑問だった。いや、抵抗したところで解放してくれるとは思えないんだけど…それもこれも、りっちゃんが居ないのがいけないんだと勝手に決め付けて、なるべく早めにコイツから避けることを決意する。たとえ22時まで家に入れてくれなくても、近くのコンビニとかファミレスで時間を潰せばいい。今、コイツといることだけは危険だ。
「…お前、家に入れてもらえないだろう?」
「べっ、別にそんなのどうでもなるから。いきなり引っ張ってきて何の用よ」
「長谷川と誠人に頼まれた。自分等は肝試しの準備があるから、仁美のこと頼むって」
 何だと…?りっちゃんは肝試しの準備があるって…!誠人の野郎、絶対ぶっ殺す!!りっちゃんは私の大親友であって、私の良き理解者であるのにどうして私から奪う!そして、代わりに寄こすやつがコイツだと…?ふざけるのもいい加減にしろ!
「大丈夫か、仁美?」
「大丈夫じゃないわよ。アンタ、分かってんの!私はアンタと一緒にいることが苦痛なの!アンタのせいで、私の平和な学生生活が奪われているってことを自覚している?」
 自分の本音をぶちまけたところで気付いた。なんでこんなことコイツに喋ってんのよ…!
「なぁんだ…俺のこと意識してくれてたんだ。嬉しい限りだねぇ…」
 なんか性格変わった…?これは、まさにあのときの黒なコイツだ。私の人生を無茶苦茶にしてくれたあの日のコイツに間違いない。
「意識って何よ…」
「仁美は俺を意識してるってこと。さぁ、行こうぜ」
 また手を無理やり掴まれる。って、行くって何処に行くわけ?って私も私でどうして連れていかれているのよ!!
「放せ!この馬鹿!」
「放せるわけねぇだろう。馬鹿なのはお前のほうだ」
 性格変わりすぎて、コイツの実態がつかめない。それに馬鹿だと言われる筋合いもない。
 抵抗したが、無理やり引っ張られて、ぐんぐんと奥に進んでいく。特別奥になにかあるわけでもない。ただ、奥にいくほど人気がなくなるだけである。人気がいなくなるのは何が何でも避けたい。コイツと2人きりになるのは嫌だ。周りの目があれば、まだ何とか助かるような気がしてならない。
「こんなとこでいっか」
「なっ…何がよ」
 まだ、約束の時間まで十分ある。なるべく早くコイツから離れたい。
「お前とゆっくり話がしたかっただけ。俺のこと避けているし、メールは無視するし…それに、クラスのやつに話を聞かれたくないからな」
「話って何…?」
 だいたいの予想はつくけど、コイツと話すことなんてない。
「…さっきの話の続き。シバ先から連絡回ってないんだろう?」
「あぁ、その話ね。で、連絡って何?」
 自分の頭から抜けていたことだけど、これは聞いておかなくてはならない。本当にシバ先は連絡をよく回し忘れる。以前も学校で放課後に生徒総会をするという連絡をし忘れると言う壮大なことをやらかした。たまたま、他のクラスが体育館に向かっているのが分かったために事なきを得たが…突然だったために焦ったことだ。
「実は――――――」
 そのとき、突然大きな物音が入ってしまい、アイツの声が聞こえづらい。その音がずっと続いている。微かに声は聞こえるが、内容の把握はできない。
「―――というわけだけど、構わないか?」
 始めと終わりしか聞こえず、もう一度言ってほしかったが、コイツと2人で居ると言う現状に改めて頭を悩ませる。だってさ、聞き返すのもなんだかめんどくさいし、そもそもあのシバ先からの連絡なんて碌なことはないしね。それに今さらだけど、どうして私だけに連絡なんてどうでもいいような内容にしか思えない。
「構わないわよ。別に…」
「そっか。良かった。仁美が了承してくれて」
 少し微笑んだ顔でコイツは答える。どうしてそんな顔をしているのかよくわからない。安易に了解してしまったことに後悔はしていない。ただ、ちゃんと話を聞かなかった私が悪いだけだ。しかし、それが後で一生の後悔になってしまうということにまだ気づいていなかった。
「さぁてと、祭りを楽しもうか」
「ちょっと、私はアンタと一緒に楽しむなんて言ってないんですけど」
「でも、お前金持ってないだろう?」
「へ?」
 間抜けな声が出てしまったが、お金ならちゃんと財布を持ってきた…って、今日は普段の鞄など持ってきていない。母親から浴衣に合う巾着袋を持たせてくれただけだ。アレ、私、あの後部屋に戻ってないから財布なんか入れているわけがない。つまり、コイツの言うとおり私は一文無しということだ。
「って、財布忘れるなんて馬鹿にもほどがある…!」
 コイツに言われて気づくのも、最悪だが、本当に馬鹿だと自分でも思ってしまう。それにどうして今まで気づかなかった。さらに、どうしてコイツが私が財布を持っていないと言うことを知っている。
「心配するなって。おばさんから金預かってるからさ」
「だったら、それを私に渡して消えろ」
 さすが私の母と言いたいところだけど、どうしてそれを私にではなく、コイツに渡す…!
「嫌だね。今日は、プールの後からお前との時間がゼロなんだから、その分の補給させてもらうから」
「なっ…なんてこと言ってんの」
 聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう。
「それに、お前のこともおばさんと彰人さんから頼まれてるからさ」
「そんなの理由になんない」
「お前の意見は全部却下。さぁ、行くぞ」
 そう言って勝手に歩きだしている。って、私の意見を却下する権限をコイツが持っているはずはない。
「行かないのか?別に俺は構わないけど。肝試しまでお腹すかしてそこで1人で居てもいいならな」
 確かに、此処で何かお腹に食べ物入れておかなくては後できついことになる。誠人やりっちゃんのことだから、凄い肝試しを用意しているに違いない。さらに、このあと、打ち上げ会と称して何処かでさらに食べることになっているが、肝試しまでのエネルギーはとっておかなくてはならない。此処で肝試しの時間まで1人でいても別に構わない。というか、脱走するだけだが…家にも帰れない。お金もないという状況はどうしようもない。確かに、こんなところで1人でいるのも何かと怪しい人に見られてしまうかもしれない。
「…行くわよ。行けばいいんでしょう。いえ、一緒に行かせてください」
 やけだったが、今はそれが一番良い選択だと私は思った。
「よーし!久しぶりの祭りだから、思いっきり楽しもうな。仁美」
 名前を呼ばれて少し赤面してしまう。今までこんなことはなかった。たぶん、コイツの声が、顔が、嬉しそうだったからだと思う。

2010/1/31

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