クラスの仲間とともにやってきた夏祭りのはずなのに、出店にコイツと回ることになるなんて思いもしなかった。あとで、体裁がありそうで怖い。ただ、そこまで広くない会場なのに、クラスメイトの姿が見当たらない。辺りを見回して探してみるが、何処にもいない。何人かは肝試しの準備でいないはずだが、それでもクラスメイトがいないということはどういうことかわからなかった。あえてそのことをアイツには告げず、一緒に歩いている。 「…さっきからキョロキョロしてるけど、どうかしたのか?」 「ぁ、いや…別に…」 口を濁す。コイツと2人でいることがとてつもなく緊張するっていうか、私の体内では危険という名のブザー音が鳴り響いている。でも、今の状況をどうにかするにもどうにもできない。 人が多く行き交っている。毎年この時期を楽しみにしている人は、多いはずだ。何もかも全て忘れて、昔に戻ったのかもしれないと一瞬疑ってしまう。コイツと2人っきりで夏祭りというのも過去に何度かある。誠人の都合が合わなくて、2人で夏祭りを楽しんで、遊びまくって、後で誠人に自慢して、誠人はそれに対して怒って……懐かしい思い出。でも、今はあのころと何もかもが違っている。今、コイツと2人でいるという事実も、私達の立場と言うのも全部が違っている。 ブザー音が止まらずに鳴り響いているけど、なんだか今日はあのころに戻りたくなった。 「ならいいけど…お前、やっぱり」 「…今日は、全部奢ってくれるんでしょう?」 アイツが何か言おうとする前に、私は遮った。 今日なら、昔に戻れるような気がする。何か血迷っているのではないかと思う。でも、今日を逃したら、コイツとこうやって遊ぶのももうないだろう。 「当たり前だ。お前の分の金も俺が持ってるんだからな」 「…破産させてあげるから、覚悟してね」 奢ってくれるというのなら奢ってもらおう。私は一文無しなんだしね。 「……オイ、どうしたんだ?何か、悪いものでも食べたのか?」 私の態度がおかしいのを疑っている。私自身も、どうしてこんな気分になったのかわからない。久しぶりに浴衣を着て、コイツと2人でいて、周りにはクラスメイトが居ない、幼いころの夏祭りと同じような状況。それがこんな気分にさせているのだろうか。 「別に!今日は休戦ってところかなー」 なんだかこうなったらやけだ。やけというよりは、最初は反抗していたが、夏祭りに来ただけでこんな懐かしい気持ちになってしまった。今は、昔のように思いっきり遊びたい。夏祭りを楽しみたい。 「せっかくなんだから思いっきり楽しもう」 私のその言葉にアイツの顔は驚いていたが、アイツはニコッと笑って、私の腕を引いた。 「あぁ」 「んじゃ、早速…昔の借り返すから、射的に行くわよ!」 過去を思い出すのと同時に、コイツに借りがあったことを思い出す。昔、私がいくらやっても取れなかった射的の景品であった超巨大ぬいぐるみをコイツが何度も挑戦してとってくれたことがあるのだ。今思えば、射的の的にしては大きい的で、重さからなのかいくら当てても倒れなかった。それを私にくれたのも懐かしい思い出だろう。 「借りって…まさか、あの巨大なぬいぐるみのことか?」 …覚えているなら話がはやい。 「そうよ。今更な気もするけど、今度は、私がなんか射的で上げないと気が済まないの」 「別に気にしなくていいのに。俺的には射的の景品じゃなくてもっと別のものがほしいんだけど」 嫌な予感がしてならないが、こういうのって少女漫画とかのお決まりの展開とかになってしまうのではないだろうかと思いながらも、一応聞いてみることにした。 「だったら何がほしいわけ?」 「そんなの決まってるだろう」 当たり前のようにアイツは返答する。しかし、本当に少女漫画の王道に走っているような気がしてならない。いや、走っている気がするっていうより、既に走っているに違いない。 アイツは私の顔をじっと見ていて、何も答えない。本当にお決まりな展開ではないだろうか。 「なっ…何?」 「本当にお前って鈍感だな」 「………………っ!!!」 たったその一言で察しろというのも無理難題と思うけど。いやいや、やっぱり、もしかしてっていうより、やっぱりアレですか…? 「オイ、どうした?といっても、こういうお前もかわいいからいつでも見ていたいけど」 さらに恥ずかしい台詞を言うコイツを殴っていいですか?絶対に顔が今おかしくなっている。聞いているこっちが恥ずかしい。言っている本人に恥ずかしいっていう気持ちはあるのでしょうか。 「…まさか、私ってこと?」 恥ずかしながらも王道展開の結末を自分から口にした。というか、なんかさっきもコイツは私との時間がどうとかこうとか言っていたような気がする。 「…鈍感娘が少しは成長したという証拠だな」 「鈍感娘で悪かったわね!!さっさと射的に行きましょう!!」 「で、結局射的には行くと…」 「…私なんか上げられるか、ばーか!!」 「はいはい」 少しだけ昔に戻って、コイツとこうやって過ごす。懐かしい。本当にその一言に限る。 射的をして、焼きそばなどを食べて、またさらに遊んで、こうやって過ごすのもどれくらい久しぶりだろう。学校生活はコイツのおかげでぶち壊されたと言っても過言じゃない。そのコイツとこうやっているのが不思議だ。何処かで切れるであろう縁が未だに続いているのもおかしい。幼馴染の関係がこうも長く続いているなんていうのもおかしいのかも知れない。コイツが告白してきて、関係が一歩変わろうとしているのもわかる。でも、私はそんなのを考えたくなくて、今を大切にしたいだけだ。 2010/2/17 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |