「ぁ、やっと来たな」 誠人がある意味嫌味を言いながら、出迎えてくれた。待ち合わせ場所に着くと既に皆、集まっていて私とコイツは最後だったらしい。だけど、ギリギリ時間には間に合ってるんだから、そんなこと言われるつもりはない。 「時間に間に合っているから構わないでしょう」 「普通こういうのは5分前に集まるのが常識だろう」 確かにそうかも知れませんが、今はそんなの関係ないでしょうが… 文句を言いたかったが、それを言う間もなく、アイツは小声でさらにその後を続ける。 「あ、それとも高志と一緒にもっと祭りを楽しみたかったとか?」 「…忘れてた」 「は?」 全ては誠人が原因だと言うことを忘れていた。誠人の間抜け声など気にせず、力いっぱい一発顔面を殴った。その音は周りに轟き、皆何事だという顔をして見ていた。 「お前の顔面パンチ受けるの久しぶりだけど…相変わらず痛ぇな」 「…怒らないとこ見るとやられる覚悟はあったってことかしら」 「まぁな」 誠人は笑顔で答えた。お前は一体なんなんだって聞きたかったがそんなのどうでもいい。そういえば、アイツ何処に行った…って思ったら、私の斜め後方で女子に囲まれていた。いつもの風景を見て、今日はこれ以上アイツと関わることはないって思っていた。いや、関わることはあっても別に2人きりとかそんなことはもうないって思っていた。そう、コイツに好きですと猛烈にアタック中のあの女子たちから敵視されるようなことを今日はこれ以上したくなかった。ましてや、今のでまた敵を増やしたんじゃないかって思える。確実に私は何も悪くないのに、私のことを恨む敵は増えているに違いない。といっても、前から恨まれているっていうかそんな感じだから、その度が増えたってところかな。 「…さぁてと、肝試しの説明をするから集まってくれ」 誠人が仕切り、耳を傾ける。今更ながら高校生になって肝試しって思ってしまう。けど、夏の定番と言ったら定番なものだ。 ルールも定番中の定番で、男女でペアを組み、奥に設置してあるお札をとってくるという…何処にでもありそうなルールだった。とりあえず、アイツ以外となら誰とでも構わないと思っていたんだけど… 「なんで、アンタと一緒なのよ…」 嫌な予感というか、やっぱりというか…くじ引きの結果、やっぱりコイツとペアになってしまった。くじ引きと言った瞬間、コイツ大好きファンクラブの方々は目をキラキラしていたのに、一気に夢を崩してしまったような気がする。 「しょうがないだろう。くじで決まったんだから」 コイツは平然と言う。確かに、コイツからしたら良いんだろうけどさ…私の気持ちを少し考えてよ。というか、これでまたさらに恨み度がアップしたんじゃないだろうか。 「りっちゃぁあああああああん」 私は、コイツのことなんか無視して前で仕切っていたりっちゃんに抱きついた。 「まぁ、頑張れ。祭りのときは悪かったけど、これは運なんだからしょうがないでしょう」 「誰かと取り換えっこしてほしいんだけど」 もう本当にコイツ以外なら誰でもいいから、変えてほしい。後で知ったんだけど、りっちゃんが肝試しの実行委員なら、りっちゃんの許可をもらえばOKってことじゃないの? 「そういうルールはないから諦めて。それに、そんなルール作ったら意味ないでしょう?」 ルールがないなら今すぐ作ってって言いたかったけど、そんなことしたら迷惑だってわかってるからそんなことしない。しぶしぶ受け入れるしかない現実に嫌になる。私の運ってどれだけ悪いのだろうか…それとも、運ではなく何か別の力が働いているようにしか思えない。 「そうだけど…そうだけど…!!」 約15分の1という低確率なのを引き当てるなんてこと絶対あり得ない。確率的にはありえないのに、なんでこうなるんだろう。あぁ、なんか今日は嫌なことばっかりな気がする。 「……高志。仁美に何かしたら、私のほうからぶっ殺すからね」 「お前が言うか。というより、長谷川…お前、彼氏に似てきたな」 コイツから逃げて此処にきたのに、後ろにコイツがいるっていうのはありですか?それより、りっちゃんに彼氏…そんな話聞いたことない。りっちゃんは恋バナが好きだけど、自分の話をすることなんてほとんどっていうか、全くと言っていいほどない。そんな話し聞いたことない。 「りっちゃん付き合ってる人いたっけ?」 「こう見えても一応ね…」 「え、誰?」 気になる。というより、親友の私が知らないで、どうしてコイツが知っているのかも謎だ。 「なんだよ仁美、知らなかったのか?」 「…は?」 「高志。喋ったらその時点でぶっ殺す。生きて帰れると思うな」 その言葉から教えてくれるわけがないということを悟った。そして、りっちゃん怖いよ。これがりっちゃんの本来っていうかそんな感じの子だから別に構わないんだけど… りっちゃんは目で完璧にコイツを威嚇していた。コイツもそれに答えるように返事をする。 「…わかった。まぁ、仁美に言った時点で信じてもらえないと思うし…」 「っていうかどこでそのことを…」 「彼氏さんのほうから直接」 「…喋らないでって言ってるのに」 私が知っている人物がりっちゃんと付き合っている。一体誰だろうと頭の中で考えてみるけど、どれもこれもりっちゃんと似合わないっていうか、付き合うまでの中まで至ってないように思える。 りっちゃんとコイツの会話に何処か居づらいと思った私は、そっとその場を立ち去り、ベンチに腰を下ろす。 どうしてか、今日は本当にいろいろあった。というか、夏休みをほとんど引きこもりで過ごしていた分、久しぶりの外で少し疲れたって感じだ。 自業自得。 そう言われればそうだが、その原因がアイツの告白。もし、アレがなかったら私はどういう夏休みを過ごしていたか少し考えるけど、やっぱり勉強ばっかりしていたんじゃないだろうか。 今度こそアイツに負けたくない。その思いだけで、勉強ばっかりしていたことだろう。でも、実際は…アイツから避けるために勉強に逃げていた。それが良いか悪いかはわからないけど、私は昔のままでいいんじゃないかって思う。 …というか、考えていてもしょうがない。だから、りっちゃんが言っていたように普通に過ごそう。何事もなかったかのように過ごすのが一番いい。 それが今日1日で出した結論。向こうが何か言ってきても、適当に流せばいい。 時間が全て解決してくれる。 だから、今まで通り接すればいい。きっとアイツの告白なんて本気のものじゃない。私をからかっているだけに違いない。 変な方向に走っているかもしれないっていうのはわかっている。 でも、私自身恋愛に興味がない。だから、ごめんね。 恋愛に本気になったとき、私の中で本来の答えが出るような気がした。 2010/3/1 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |