「んじゃ、ラスト仁美たちスタートね」
 3分置きでスタートしていて、私達はラストだった。初めのほうの組みは戻ってきていないのを見て、疑問だったのでりっちゃんに聞いてみると、『あぁ、ゴールで待ってもらっているから』と答えた。
「行くぞ」
「ぁ、うん」
 懐中電灯を受け取り、私とコイツは歩きだす。まぁ、怖いのが苦手といっても、別に平然といればいいんだけだ。だけど、コイツと居ること自体が嫌っていうだけで…さっさと終わらせて、このあとの打ち上げとやらも終わらせて家に帰ろう。
 コイツの後ろについて歩く。りっちゃんのことだから絶対何か用意してそうなんだけど、今のところそれもない。
「…仁美、お前大丈夫か?」
 沈黙の中、暗闇を歩いていたのに、突然コイツが話かける。それは、私が怖いのが苦手だということを知っているため心配したのだろう。
「平気よ。昔は苦手だったけど、今は…さすがにね」
 本当は今でも少し苦手だけど。
 コイツに本当のことを喋りたくなかった。だから、少し濁した。まぁ、昔に比べたら少しは平気なのは本当だし。
「嘘だな」
「え」
「お前の嘘くらい見抜けないでどうするんだよ、ばーか」
「なっ…」
 コイツは私が嘘をついているとわかるの?でもなんでわかるのよ。そして、どうして馬鹿呼ばわりされないといけないわけ?
「なんでそんなことがわかるのよ」
「…彰人さんに聞いた」
「あの糞兄貴…」
 兄貴はやっぱり最低最悪最強なのかもしれない。お喋りばかりしやがって…私の知られたくないこととかもコイツに話してるんじゃないかって思ってしまう。
「まぁ、あの彰人さんに敵うやつなんて、アイツと母親だけだろうな」
「…アイツって誰?」
「あぁ、彰人さんの彼女さん」
「って、あの兄貴に彼女がいたわけ?」
 そんな話聞いたことない。りっちゃんのときと同様、それは衝撃的な内容だ。自分でもいうのもなんだが、あの兄貴は極度のシスコンであるため、私以外の女に興味を示すなんて究極的に以外だった。いや、そのほうが確かにありがたいんだけど。いつも何かと私に構ってくるから、最近は少し家族だけど距離を置いている状況だった。
「…まぁな。俺も今日知ったからいつから付き合っているとかは知らないけど」
「今日知ったって…そんなこと私に喋ってもいいわけ?」
「…あぁ、俺はてっきりお前が知っていると思ってたし。彰人さんも相手が誰か出さなければ喋っても良いって言ってたから」
 アレ、なんかそれ矛盾してない?
「私が知っているという仮定なら、喋っても良いっておかしくない?」
「まぁ、お前から聞いたらそうなるだろうけど…彰人さんってモテテいただろう?今でも、後輩からの告白が続いているらしいから、そういう話流しとけっていうこと」
 確かに、あの兄貴もモテテいたような気がする。特にそのことを喋った記憶もないけど、生徒会長も務めていたし、部活動でも凄くて人気があったのは確かだ。兄貴が自分のことを喋るなんてほとんどなかったから、今でも、そういう告白が続いているっていうのも初耳だ。つくづく思うけど、私って、そういう話に疎いっていうか、耳を傾けてないっていうか…
「…まぁ、心配しなくても彰人さんは仁美とその恋人一筋なのはわかってるから、そんな話流すまでもないと思うけど」
「どうしてアンタがそんなことわかるのよ」
「だってあの彰人さんだから。どれだけ長い付き合いしてると思ってんだよ」
 …まぁ、確かに長い付き合いでしょうよ。でも、どうして実の妹の私より、アンタのほうが知っているのかっていうのはわからないわよ。
「それより、何も出てこねぇな」
「…そういえば、そうだよね」
 喋りながらとはいえ、随分歩いているはずなのに、人が全然出てこない。てっきり、1時間もかけて準備をしたんだから、それだけ怖いものを用意したんだと思ったんだけど、拍子が抜けてしまう。まぁ、私にとってはそれがありがたいけど、やっぱり何かがおかしいような気がする。
「長谷川が完璧にプロデュースしてるのに、これはおかしいとしかいいようがないな…」
「確かに、何かあったのかな…?」
「…さぁな。それとも俺たちが最後だってこと忘れて、皆撤退しているとか」
「あはは。それはありがたいかも」
「まぁ、とりあえずゴールに行ってみれば何かわかるだろう」
「うん」
 何もないことをいいことに、さっさと中継点に向かうことにした。
 この後も何も起こらず、中継点である場所には最後の1枚のお札が残っていた。
「ねぇ、このお札をとって社に行けば終わりだよね…?」
「そのはずだけど、ここまで何もないっていうのもどうも怪しいけど」
「じゃぁ、さっさと行こう」
 お札を巾着袋にしまって、また歩き出す。此処から社までそんなに距離はない。だから、何もなければすぐにつくはずだった。
「…なんか嫌な予感がするのは気のせいかな?」
「…いや、その予感あたっているんじゃないか」
 此処に来てようやく人の気配がたくさんしてくる。これは脅しに来ているってことであってるのかな。でも、どうしてやたら後半に多いわけ?
「さっさと行こう!さっさと!」
 私は何故か恐怖心で一杯になってしまい、自然と足が速くなってしまう。平然を装いたかったが、それも無理だった。やっぱり、こういう類のものは嫌いだ。
「落ちつけ仁美」
 突然、手を掴まれる。今はそんなことされてもなんとも思わない。そんなことよりも一刻も早くゴールについてこの恐怖心を捨て去りたい。
「怖いのもわかるけど、一緒に行くぞ」
「…あ、うん」
 すると、アイツは恐怖心を和らげてくれるためか、手を繋いでくれた。
 温かい手の温もりが私を包んでくれる。
 アイツは、私を引っ張りながら前を歩いて行く。でも、そのほうがありがたかった。早くもなく遅くもなく、確実に私とコイツはゴールである社に向かっている。私の中では早くゴールに着けばいいと思っていたが、何かあったときはコイツがいると少し安心するような気がした。

2010/3/4

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