ゴール前には皆居て、何やらにやにや顔だった。結局此処まで何もなかったし、全然怖くなかった。怖くなかったっていうのは半分嘘だけど、お化けとかよりも別の意味で恐怖心が一杯だった。
「…これって肝試しだよね?」
 私達をスタート地点で見送ったりっちゃん達は既にゴール地点に居てそのことを聞いてみる。
 全然内容が肝試しじゃなかったのは気のせいでしょうか。誰も脅かす人とか居なかったし、何かトラップっていうかそんなものもなかったし、これの何処が肝試しっていうんですか。納得がいく答えがほしい。じゃなかったら、始終…特に後半は怖くてしょうがなかったんですけど!
「まぁ、仁美たちがスタートする前まではちゃんとした肝試しだったのよ?」
「…どういうこと?」
「はい、皆さんせぇの!」
 りっちゃんの合図と同時に何処からかクラッカーを出して、一斉にパンっ!という音を鳴らした。いつ、どこでクラッカーなんて調達してきたんだと少し疑問に思ったんだけど、どうしてクラッカーを鳴らす必要があるのでしょうか。しかも、外で鳴らすって迷惑なんじゃ…
「お誕生日おめでとう!」
 誕生日?誰の?
 皆が声を合わせてお祝いの言葉を述べているが、一体誰の?って、私じゃなければ私の隣に居るコイツに決まっている。
 って、誕生日?!
「…なんで俺の誕生日なんか知ってんだよ」
「まぁ、そこは長い付き合いだし?だから、俺たち全員からのプレゼントとして、仁美との甘い時間プレゼント!まぁ、実際その通りで過ごせたみたいだしな」
 誠人がいうけど、甘い時間だって…?何処が、甘い時間だって言うのよ。それより、全部仕組んでやがったってことなのね…あぁ、体の底から怒りが沸き上がってくる。
 そして私は餌か!私、全然そんなこと聞いてないし!いや、聞いていたとしても断固拒否だし!
 …こいつがそんなもの欲しがるわけない!
「何を考えたら甘い時間っていうのよ。つか、私は何も聞いてないんですけど!」
「…だって、仁美に喋ったら意味ないし。それに甘い時間ってソレ見るとそうとしか想像つかないし」
 誠人の視線を辿って見ると、私達の中心…って、まだ手を繋ぎっぱなしだったことに気づいて急いで振りほどいた。あぁ、またこんなところをアイツ大好き集団に見られて最悪としか言いようがない。っていうか、これは不可抗力。不可抗力だ!
「違う!これは!」
「で、他に言うことは…誠人」
 私が何か言う前にコイツが切れた。完璧に切れてる。コイツが切れるなんて珍しいけど、やっぱり今回のことは怒ったみたい。
「まぁ、許しせよ。これも全て全員の協力あってこそだな」
「言い訳言うな!」
 あぁ、なんか誠人とコイツの言い合いが始まったようだし…これで、お開きでいいんじゃない?って思いたいんだけど。そう言えば、この後、花火見て打ち上げだっけ?あぁ、面倒としか思わないのは私だけでしょうか。
「ごめんね、仁美」
「…りっちゃん」
「仁美を騙すつもりなかったんだけど、まさか仁美が高志の誕生日のこと知らないとは思わなかったし」
「別にアイツの誕生日なんて気にしてないし」
「まぁ、そうだよね…それに今日のことはどっちかっていうと高志親衛隊のメンツから言いだしたんだし」
「はぁ?」
 もうマジで意味分かんない。どうしてあの子たちが言ってくるわけ?そもそも私って目の敵っていうもんじゃないの?
「なんか全て仁美を騙したようで悪いんだけど、この後の打ち上げって言うのも正確には誕生日会なの。んで、旅行に行っているというのはその準備の口実で、三嶋千晶嬢が準備を買って出てくれてね」
「私が幹事にされたのってまさか、私を強制的に連れて行くとかいうのが原因?」
「あら、わかってるじゃない」
 自分で言うのもなんだけど、私はアイツを釣る餌なのね。確かに夏祭りは楽しかった。でも、此処まで騙されるとは…最悪だ。
 頭を抱えて少し悩んでいると、花火が始まった。
「おっ、始まったな…」
 男子の声が耳に入る。毎年、夏祭りの最後に打ち上がる花火。
 花火そのものも久しぶりに見た気がした。
 花火が始まって、花火の音だけの静寂さが残っている。皆、花火に釘付けだった。確かに色とりどりで綺麗だ。
 夜空は、色鮮やかな花火を映し出していた。


「だから、行かない!最初希望者って言ってたじゃない!」
 誠人とりっちゃんに一緒に来いと言われているが、私は頑なに拒否をしている。
 しかも会場、千晶ちゃんの豪邸じゃない!つか、今日幹事なんか必要だったの?絶対に100%必要じゃなかったじゃん!確かに、参加費2000円とか副幹事っていうか、千晶ちゃんが集めれば良いだけじゃない。そもそも私は千晶ちゃんの代理だったわけなんだしさ!千晶ちゃんがいるなら、私の出番ないじゃん!
「頼むよ、仁美。じゃないと高志、このまま帰ってしまう」
「…元々希望者なんだから帰らせればいいじゃない。主役がいない誕生日会になったって私知らないし」
 今、アイツは女子共に囲まれて身動きができない状況でいた。
 元々飲み会は希望者のみっていう話だった。なんかそれ聞くとアイツにサプライズの誕生日会だといっても、アイツが行きたくないっていうんなら、無理に連れていく必要もないんじゃない?
 さらに、私が行かなくてはならない理由もない。というか、ある意味私にもサプライズだったし、さっさと帰りたい。22時まで家に入れないとか言われたけど、そんなの知るか!私はさっさと家に帰りたいのよ。
「仁美、頼むから。まぁ、確かに行きたくないっていう気持ちもわからなくはないけど…」
「だったら、りっちゃんの彼氏が誰か教えてくれたら行く」
「え、そうなる?」
 あのときりっちゃんの彼氏が誰なのか結局教えてもらえる雰囲気なかったかけど、教えてくれるかな?なんかとっても教えたくなさそうだったけどさ!
 りっちゃんの顔色が少し曇る。さぁ、どうするりっちゃん?私に教えてくれる?それとも教えない?
「…仁美、長谷川の彼氏が誰か知らないのか?」
「知らないわよ。なんで私が知ってるわけ?さっきも、私が知らないってことにアイツも驚いていたけど」
「いやだって」
 つか、なんで誠人も知ってるわけ?私だけ仲間はずれ?
 どうして知っているかなどという疑問もあったが、誠人が言う前に、りっちゃんが誠人の口をふさいだ。
「…それは教えられないかな。誠人も誰にも言うな」
「まぁ、確かに相手も相手だからお前も隠したがるのもわかるけど、教えないと仁美、来ないんだろう?」
 私は、イエスと言わんばかり、縦に首を振った。それより、いつまで私を拘束したら気が済むのか教えてほしかった。私が行くというまで、放さないつもりなのかもしれない。もう既に家に帰っている子もいるのに、どうして私だけ此処で足止めされないといけないか理由がわからなかった。千晶ちゃんの家で開かれる、アイツの誕生日会に参加するメンバーは此処に留まっているけど、私行く気ないっていってるのにいつまで私を説得するつもりなんですか?お二人さん。

2010/3/5

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