一体いつになったら解放してくれるのやら。かれこれ5分くらいは引きとめられていると思う。帰ろうにも帰ろうとすると、がっちりとりっちゃんが腕を掴んで帰れない。だから何度も言っているようにりっちゃんの彼氏を教えてくれたら行くって言ってるのに… 「長谷川、お前が犠牲になれ」 「嫌だよ。仁美に教えたら、仁美になんて言われるか…」 「…教えるつもりないなら帰るって言ってるじゃん」 「それも困る」 自分達の都合だけしか考えてないみたい。どうでもいいけど、そっちが諦めてくれるまで私はいくらでも待つよ。だって、誕生日会を始めるのが遅くなったとしても私には関係ないことだし。 「仁美、帰ろう」 「って、え?」 肩を掴まれたと思ったら、コイツだった。あの囲まれていた中から抜け出したみたいだけど、皆こっち見てるし…! 「誠人、悪いが俺も帰らせてもらうから」 「ってはぁ?主役のいない誕生日会ってなんだよ」 「そもそも仁美の言うとおり、希望者だけだったんだろう。俺もパスするわ」 「お前、こないだ聞いたときは行くって!」 「それは、ただの打ち上げだったらっていう話。誕生日会なんて行きたくない」 「…ったく、高志!」 誠人は怒っている様子だったけど、何も言わない。りっちゃんもりっちゃんで、ようやく掴んでいた腕を放してくれた。 「まぁ、本人が嫌がってるならしょうがないか…あとはこっちでなんとかするから、二人とも帰りなよ。気をつけてね」 「ありがとう、りっちゃん」 「済まないな長谷川」 「…まぁ、最初からこうなることも予想していたから三嶋嬢の家で暴れてくるよ」 暴れるって…人さまの家でご迷惑かけちゃ駄目だよ。まぁ、ちょっと千晶ちゃんの家を見てみたいっていう気持ちもあったんだけど、今日は帰りたかった。ただ、コイツと一緒に帰るっていうのもなんだかなって思ったけど、コイツも嫌がってるんだし、今日は気分もいいし、いっかなぁ…。 帰路の途中、懐かしい昔話や今日のこと、いろいろとコイツと話していた。こないだのプールのときみたいに沈黙が続かなくて良かったと思ってる。ただ、あの日のことは今でも深く脳裏に焼き付いていて、今後もきっと忘れはしないだろう。 あ、そういえばコイツにまだ言ってなかったことがあった。 「あのさ、今日はいろいろとありがとう。それにね、言いそびれてたけど…お誕生日おめでとう」 私だけ仲間外れにされて知らなくて、あのとき言いそびれてしまったから。別にコイツの誕生日なんかに興味はなかったんだけど、やっぱり誕生日は祝ってもらいたいじゃない。 アイツは目を大きく見開き、驚いたような顔を見せたと思ったら、次の瞬間アイツの腕の中にすっぽりと私がいた。ってこの状況は前回のパターンと同様なような気がするのはきのせい? 自分の身の危険が感じられるけど、これ以上のことをコイツはしてこない。ただ黙って私を抱きしめていた。道のど真ん中でこういうことをされると少し恥ずかしいのだが、今は幸い、人も少ないからまだいいだろう。 するとアイツは私の耳元で小声で呟いた。 「…嬉しい」 その声に私はドキッとしてしまう。艶っぽくて、色っぽくて…なんていうかコイツじゃないみたいだった。 「おめでとうなんて、誠人や母親からも言われたけど、やっぱりお前からのその言葉が一番嬉しいよ、仁美」 なんとも言えない。心臓の鼓動がコイツに伝わっていると思うけど、いつもに増してその音はきっと速いと思う。 「…………ごめん。我慢できない」 そう聞こえたかと思うと、コイツは私を壁に押し付けた。そのときの衝撃が少し痛いと思ったが、次の瞬間、私の唇に何かがあることに気づく。 …コイツ、何しやがる!!! 油断していた私も私だが、コイツもいきなりなんてことをしてくれやがる!前回のファーストキスと一緒に返しやがれ!何が我慢できないだ?意味わかんねぇ!! 唇を離そうとして押し返そうとしてもそれはほとんど無駄な抵抗だった。びくともしない。息が苦しくなってくる。すると、一瞬だけアイツが唇を放したと思ったら、角度を変えてまた唇が触れた。まるで唇を貪られるといった感触だった。 しばらくしてようやく唇が離れる。すがすがしい顔をみた瞬間、私はアイツの顔目掛けて力いっぱい殴った。しかし、アイツは私のパンチを片手で受け止めた。 「アンタって奴は、何ってことをしやがるのよ!」 「言っただろう。もう遠慮しないって。なんだか無防備なお前見ていたらつい我慢できなくなった」 コイツの本性、出やがったな。今日一日、そんな様子見せなかったくせして、私をおちょくっているの?それに我慢できなくなったって何さ! 「…この馬鹿!いっぺん死んでこい!私のキス返しやがれ!」 「返せって、どうやって」 「…っ!!!!」 確かにそう言われれば答えるすべはない。某国民的キャラクターがもつ道具でも持ってこいと言いたいところが、そんな非科学的なことを言っても無意味だ。 「落ちつけって。まぁ、確かに…悪かった。お前の気持ちを無視してるってことだからな」 「……」 素直に謝られてもなんだか調子が狂うんですけど。 「俺は何度でも言う。俺は、仁美のことが好きだから……今日1日嬉しかったよ」 「…私は―――」 「お前の返事なんていつでも待つって言っただろう。俺の気持ちだけ知ってくれてればいいからさ」 「私も――――私も楽しかったよ。今日1日」 今言える精一杯。実際まだ頭の中が混乱していると言っても良い。まだ本当は怒っているはずなのに、あんなことを言われたら怒りなど何処かに吹っ飛んでしまった。 「……帰ろうか。いろいろとあって疲れたことだし」 「そうだね」 今日はもうキスについて咎めなかった。だってなんだか…それが私からのプレゼントの代わりのような気もしたからだ。さすがに今後またこんなことがあったら怒る。今度こそ、完璧に顔面パンチを食らわせるだろう。でも今日はこれでいいと思う。私のなかでのコイツとの関係の答えもとりあえず出た。 ―――現状維持。 今はまだ私の中での答えはこれが精一杯。時間をかけて答えが見つかれば良いそう祈るばかりだ。 此処からの帰り道、お互いに沈黙が続いたが、その沈黙は重いものではなく、どこか優しい沈黙だった。 「仁美」 「…どうした?」 家の前につくと、アイツは私に声をかけた。優しい沈黙だったが、お互いの家の前について、コイツのほうから口を開いた。 「2学期もよろしくな」 「…あ、うん」 私は軽く返事をして家の中に入っていた。 でも、その言葉の本当の意味を後日知ったとき、私は深く後悔した。 「ただいま」 「お帰り、仁美。どうだった?」 22時前だったが、家の鍵は開いていたため、家の中に入ることができた。帰ってくるなら、母が出迎えたが、どうだったとか感想を普通聞くかな? 「久しぶりに楽しめたよ」 それだけ答えた。まぁ、女子高校生が引きこもりっていうのも良くないことだし、母親として少し心配していたのかも知れないと感じた。 2010/3/6 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |