新生徒会の発表のときは、もう適当にやり過ごすことにした。まさか自分が壇上に上がる日が来るとは思ってもいなかったし、今は受け入れたくない事実ばかりで頭が混乱していた。
 また、副会長はこのとき初めて発表するため、私の名が出た瞬間、女子の叫び声が体育館中に響き渡った。あぁ、これでまた敵を増やしてしまった。もとい、私のことをもっと恨む人も出てくることでしょう。

「りっちゃぁああああああん」
 始業式とその他もろもろの雑事を終え、教室に戻った。そして、真っ先に私の心のオアシスであるりっちゃんに抱きついた。もう私の心を慰めてくれるのはりっちゃんしかいない。
「まさかとは思っていたけど、知らなかったんだね…」
「だって、普通から考えて、アイツが私を指名してくる?」
 今まで通りなら、男子を誘うでしょう。そもそも兄である彰人が副会長を指名制にしたのは、その年の副会長に立候補した複数の女子の動機が兄と一緒に居たいというのが本当だったらしく、その選挙に当選した女子は生徒会活動を全く行わなかったため、兄が先生に抗議した結果、会長の指名制度となったのだ。そして、兄が選んだのはもちろんそのときの一番の親友。女子を選ぶなど、頭からなかったようである。そして、今の会長と副会長ももちろん男性。だから、この調子で誰か選ぶと思っていたのに…どうして私?
 過ぎてしまったことは仕方がない。でも、今後が嫌でしょうがない。
「…そりゃぁ、指名してくるでしょう。アンタ知ってる?」
「何を…?」
「彰人先輩が副会長を指名制度にした理由がなんだったか覚えている?」
「…そりゃぁ、覚えているけど。簡単に言えば女子を避けたかったんだよね?」
 先生曰く、本当なら誰か信頼おける女子を指名したかったらしいけど、当時の兄の人気ぶりは酷いもので、そんな子が周りにおらず、結局親友に頼み込んだって言っていた。
「そう。彰人先輩人気有ったからね。それの原因が、周りに特別な関係の女子がいなかったからでしょう?それで、美輪先輩を指名した」
 美輪先輩は私の兄と同級で兄の一番の友人。今は、関西の大学に行っているため、もう会うこともないけど、高校在学中はよく家に遊びに来ていたことを思い出す。どちらかというと女性的な感じもしていて中性的な雰囲気を持っていた。女装なんかした日は本当に女の子にしか見えなくて、自分が泣きたい気分になることもしばしばあった。
「…だから?」
 りっちゃんが言いたいことが理解できず、首をかしげる。すると、りっちゃんは呆れた顔をして溜息を洩らす。
「ホント鈍感」
 小声でぼそっと言われたが、私はその言葉にかちんときてしまう。だって、わからないものはわからないのに、それで鈍感だとか言われても納得できない。
「高志がアンタを指名したってこと考えたら、高志にとってアンタは特別な存在っていうことでしょう?はい、これでわかりましたか?神野仁美さん」
 ちょっと待てよ。今、此処で気づくのもなんだけど…
「ねぇ、それってもしもアイツが普通の一般男子だったらこんな騒ぎっていうか、あのときに悲鳴とか起きなかったよね?」
「そりゃぁね…でも、高志の人気っぷりは彰人先輩の時と同様に異常だから」
 確かに、私が入学した時の兄貴の人気っぷりはすごかったよ。確かに、あのときの状況と今の状況は大きく重なってしまう。そして、やっとりっちゃんの説明を理解した。
「…ちょっと、何で私なわけ?」
「私から言わせてみれば、高志が生徒会長に決定した時点で仁美が副会長だってわかっていたけど」
 そんなことわかってたら、たとえ信任投票だろうが、選挙活動の邪魔をしたに違いない。少なくとも私は生徒会なんてやる気ない。先生のほうから立候補しないかとか言われたけど、頑固拒否したくらいなのに、どうしてこんなことになってしまった。
「なんでよ!」
「…高志が原因で、アンタの学校生活は安全って言えないから」
「それは…」
 確かに、アイツの親衛隊かなんかの女子から嫌がらせなんてよく受けてたけど、別に私がそんなに屈するわけないってアイツも分かっているだろうし、そもそも私の兄が、彰人ということを知っている人が多いためか、最近はそんなのも少ないし。
「まぁ、高志なりの助け船でしょうね」
「どこが?」
 声を張り上げてしまったが、全然助け舟じゃない。それどころか地獄行きの舟のようにも思えてしまう。
「たぶんっていうより、これでアンタの嫌がらせとかなくなるから。高志が、自分から特別っていうのを宣言したようなもんだし」
「意味分かんないんだけど」
「まぁ、頑張れ」
 頑張れって言われても、生徒会やらないといけない時点で頑張るに決まっているんだけど…やっぱり、今後が心配でしょうがない。
「まさかっていうか、仁美が知らなかったのが本当に不思議」
「実夏…」
 私とりっちゃんが話していたところに実夏が入り込んでくる。まさか、実夏にまでそんなこと言われるなんて思わなかった。
「だって、私も生徒会だから、学年委員長って夏祭りのときに言ったんだけど…」
 …そんなこと言ってたっけ?それとも、あの声が聞き取れなかったときのことじゃぁないでしょうね?
 あぁ、ちゃんと人の話は聞くもんだなと深く反省してます。そもそも、私が聞いていなかったのがいけなかっただけだし…何度も悔むけど、あのとき断っていたら、きっと別の人がやっていたと思うしね。
 私が答えないのを見て、実夏は少し笑う。そして、話を続けた。
「まぁ、よろしくね。心配しなくていいからさ」
 そんなことを言われても心配でしょうがないんですけどね。
 私は、そのことを口には出さずに、心の中にしまっておくことにした。
「あー、よろしくね…」
 とりあえず、今日から約1年一緒に生徒会として頑張るんだから挨拶だけはしっかりやらないとね…
 今回の騒動の原因となったアイツは新生徒会長としての仕事があるのかまだ教室には戻ってきていなかった。戻ってきたら、問い詰めてやると心に決めていた。
「正確な活動開始は体育祭が終わってからだけど、体育祭のサポートとかあるからさ」
「そうだね…」
 私たちが通っている学校は文武両道で特に学校行事である体育祭に力を入れている。体育祭だけは、近辺の学校内のなかでも特に有名である。その分、練習等も大変で、近所から苦情なんかしょっちゅうである。
「あぁ、そんなに深く考えないで気楽にやればいいって」
「これで今後どうなるかが楽しみだけどね」
 …りっちゃんと実夏がそれぞれ一言ずつ声をかけてくれたけど、気楽になんてできないし、今後なんてどうにもならないに決まっている。とりあえず、アイツを問い詰めることから始めよう。私がなんのために最低限しかアイツとの接触を避けていたかわからないじゃないの…!

2010/3/17

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