アイツが戻ってきたのは、シバ先と一緒だったため、問い詰めることが出来ずに放課後を迎えた。そして、さっさと帰りたいのに実夏に捕まってしまった―――というより、私と生徒会メンバーの顔合わせその他、今後の予定の確認等々のために空き教室に連れてこられた。
 …あぁ、もう逃げられない。
 体育館では、頭が混乱していたためメンバーの確認は本当に聞き流していたに近い。此処で改めて確認すると、ほとんど知っているけど、顔と名前が一致しなかったり、1度も喋ったことない子とかも結構いる。
「ということで、待ち兼ねた最後のメンバー紹介。副会長の神野さん」
「…神野です。よろしくお願いします」
 実夏から紹介をうけて、軽く頭を下げた。
「これで全員揃ったな。つか、仁美。帰ろうとするなんて良い度胸じゃないか…」
 席に座っていたアイツが私に声をかけてきたけど、私から言わせてみると、この集まりに関しても聞いていないんですけど。
「…アンタが何にも言わないからでしょうが!私、面倒なことには首を突っ込まない主義だから」
 シバ先のHRはすぐに終わる。けど、職員室に用があったから、終わった瞬間すぐに向かった。そして、少し経ってから教室に戻って来たのだ。まだ教室には多くの女子が残っていて、殺される前にさっさと帰ろうとしていたのに…どうして此処に連れて来られないといけない。まぁ、副会長になってしまった手前、来ないといけなかったんだろうけど。
「面倒なことってお前がOKしたんだろう…」
 …確かに、ちゃんと聞いていなかった私がどうせ悪いんですよ。
「あんなうるさいところで言われても、声聞こえてないのが普通だし」
「なんだと…オイ?」
「…別に。ただ、そんな重要なことをあの時に言う?」
「お前が俺を避けまくっていたから、あの場ぐらいしかないだろうが!」
「知らないわよ。方法なんて一杯あるわよ。てか、なんで私よ!ここ数代の歴代会長みたく親友でも選びなさいよ」
「…親友って具体的に誰?」
「私以外だったら誰でも良いわよ。つか、私の質問無視するな!」
 どうして私かっていう質問に答えてない。そっちより、これのほうが重要なのに!
「無視したわけじゃない」
「じゃぁなんだっていうのよ。私が嫌がることわかっていてやったでしょう」
「…まぁ、それは半分そうかな」
「ふざけんな!今からでも遅くないから、私以外のやつを指名しなさい!!」
「はい。おふたりさんそこまで。夫婦喧嘩は此処でやらなくてよろしい」
 誠人の制止があって、私とアイツは言い合うのをやめたけど…私ったら、人がいるの忘れていた。学校では結構大人しく過ごしてきたつもりだったのに、一気にバラしてしまったような気がする。いやその前に誠人の野郎何って言った?今、とんでもないこと聞いたような気がするんだけど!
「…誠人、今なんて言った?」
「え、別に何も?」
 しらを切るつもりか、惚けたように返された。私の怒りのピークも近い。今日だけでとてつもなく怒っているような気がする。普段をこんなに怒ることもないんだけどなぁ…
「誰と誰が夫婦だって…」
「え、事実だろ?」
「……何が事実だぁあああああああああああ!!」


 気づけば自分の部屋のベッドの上で、あのあとの記憶が私にはなかった。一体何をしたのか、どうやって家まで帰って来たのかなど疑問があったけど、母に聞くのも恐ろしく頭を悩ませていた。
「アレ…」
「気づいたか、仁美?」
「…兄貴」
 勝手に人の部屋に入ってくるなっていつも言っているのに…といっても、兄の部屋は常に鍵がかかっていて入れない。兄が自腹で鍵を付けたのだ。中に見られてはいけないものがたくさんあるらしいけど…それが一体何なのか私は知らない。
「気分はどうだ?」
「…別に普通」
「その様子だと何をしたのか覚えてない様子だな」
「…………」
 兄にそんなことを言われるということは、それだけやばいことをしたというのだろう。考えたくないが、やってしまったものはしょうがない。
「図星のようだな」
「…はい」
「とにかくあの場に高志がいたことに感謝するんだな」
「なんでよ」
「アイツがお前を止めて、家まで連れて帰ったんだから」
「……私は一体何をやってしまったんだろう」
「大丈夫だ。いつものお前の行動だ」
「…私は平穏な学校生活を送りたいのよ」
「諦めろ」
「………」
 いつもの私の行動。きっと怒りにまかせてあの教室をボロボロにしたに違いない。あぁ、やってしまった…高校に入ってからそんなことはなかったのに。誠人の一言でやってしまうなんて、最悪すぎる。
「ということで、後はお二人で話し合いなさい」
「ってはぁ?」
 するとドアを開けて入ってきたのは、アイツだった。そして、それと同時に兄貴は私の部屋から出て行った。って、なんでアンタが此処にいる。
 そして、ベッドの横に腰をかけた。
「大丈夫か…っていっても、そんなに元気なら大丈夫そうだな」
「そうね。で、話しって何?」
 別にコイツと話すことなんかないんだから、話し合いなんてする必要もない。もう昼間問い詰めようと思っていたことなんかどうでもよくなった。今は、コイツと2人っきりでいるということに問題がある。
「…悪かった」
「何に謝ってんの、それ」
 コイツが謝るとは思っていなかった。いや、前にもなかったっけ?こんなこと。
「…全部」
「……私のほうも話、聞いていなかったからもういいわよ。ちゃんと責任もって副会長はするから気にしないで」
「怒っているか?」
「そりゃぁ、怒っているわよ。また敵を増やしたと思うとね…」
  アンタが一般というか人気というか…そんなのがなかったら、もっと別だったんだろうけど。そんなことを言っていられるわけではない。
「俺なりの助け船だったんだけどな」
「…りっちゃんから聞いた。でも、それが今までの状況を解決するんじゃなくて私から言わせてみれば逆に悪化するように思えるんだけどね」
 アイツは私を引き寄せて抱きしめた。普段なら抵抗しまくるだろう。だけど、今日はなんとなく疲れていたのだろうか、抵抗する気分にはなれなかった。
「心配するな。残りの学校生活は絶対俺がなんとかしてやるからさ」
「うん…」
 私は素直に頷いた。

2010/3/20

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