翌日の朝早く、アイツから生徒会の集まりがあるとの連絡があったので準備をする。とりあえず、昨日の記憶がないということはそれなりに私が大暴れしたということで…謝らなくてはならないだろう。いや、絶対に謝る必要がある。ごめん、で許されるようなことをしていないと自分でも思っているので、最悪土下座でもして謝らないといけないのは予想がついている。
「はぁ…」
 溜息が出てしまう。さらに、昨日に増して足取りが重い。というのも、こんなことになったのは自分が原因だと言うこともよく理解しているけど、やっぱり今日から本格的に授業があるからというのもある。テストの続きもあるけれど、0限は普通に授業だし、明日からは体育祭の練習もあることだし…頭が重い。
「朝から何溜息なんか漏らしてんだよ」
「…って、何時の間に」
「まぁ、そんなこと言うなって」
 自転車をお互い漕ぎながら顔を合わせたが、横並びに走行するのって一応法律で違反なことだし、学校でもしないようにって指導があったのにも関わらず、やってくるでしょうか…
 別に私が見えたって、女の私と男のアイツじゃぁ、スピードが違うんだから私を置いてさっさと行ってしまえばいいのに。
「一応違反行為って自覚してる?」
「まぁ、一応。といっても、お互い道路走ってんだから気にするな」
「…気にするわよ」
 自転車のギアを最大まで上げ、引き離しにかかった。これでどれだけ離せるかなんて思っていない。さっさと学校に着いてしまおうと思ったのだ。
「って、待てよ。仁美!」
 私がスピードをあげたことに気づいたのか、向こうもスピードを上げてきた。その応答を無視し、私は必死に自転車を漕ぎまくる。自転車を漕ぎながらの会話など危ないからやりたくない。
 私の返答がないのが気になったのか、向こうはずっと私を呼びまくっていたがそんなのを気にせず私はどんどんスピードをあげていった。
 校門を通過したのはほぼ同時。必死になって漕いだのに、アイツの顔を見るとどこか爽やかだった。やはり、女の私では男のアイツに力で敵う訳がなかった。もちろん、運動神経に関してもだ。
「置いて行こうとするなんてひどいな。お前も」
「…別に。さっさと学校に来たかっただけよ」
「あっそ…」
 自転車置き場に自転車を止める。鍵がちゃんと掛かったのを確認してから荷物を取る。いつもながらに思うけど、学校の荷物重すぎで嫌いだ。
「さっさと行くぞ。お前のことだからまた逃げ出しそうだからな」
「わかっているわよ。けど、昨日は別に逃げ出したわけじゃないし…」
「はいはい、冗談だって」
 アンタがいうと冗談じゃないように聞こえてムカつく。
 下足を履き替え、最上階にある生徒会室に向かう。生徒会室は昔、1階にあったのに、今の場所に移動したために、不便と言う声は前生徒会メンバーからもよく聞く。確かに、職員室からも遠いし、その他の特別教室に行くにしても面倒な場所だ。
 生徒会室の扉を開けると、誰も来ていなかった。予定の時間より20分も早くついてしまったためしょうがないだろう。
「やっぱり早く来すぎたか…」
「まぁ、そうだろうな。此処から一番近いのも俺達だし」
 でも私にとってはそれがありがたい。1人1人に謝りたいっていう気があるのだ。
「…ありがとう」
「どうしたんだよ、仁美の口からそんな言葉が出るなんて考えられないぞ。特別に何かしたとは言えないし」
「昨日、そういえば言ってなかったなと思って。暴走とめてくれてありがとう」
「…気にするなよ。いつものことだ」
「いつものこと…ね。まぁ、皆驚いただろうな」
「そりゃぁそうだろうな。誠人はわかっていたから、楽観視していたけど」
「…後でぶん殴ろ」
 楽観視する必要性なんか何処にもない。というか、誠人の一言で私が暴走し始めたんだから、誠人を殴るくらいしてもいい気がする。いや、その前に昨日の暴走中に既に殴っているような気がしないでもない。
「やめとけ。昨日ボロボロになっていたから」
「なんでそれで楽観視するわけ?」
「さぁな。仁美の日頃の鬱憤がこれで晴れるならって言ってたぞ」
「あぁ…それは」
 口を濁した。鬱憤が溜まっていたのは本当だ。というのも、全てコイツが原因である。女子の視線が痛いのなんのって…私が何かしたかって聞きたいくらいに、毎日が辛かったのだ。
「俺が原因なのはわかっている。お前が俺を捌け口にしなかったのもなんとなく理由がつく…」
「……」
 私は言葉を返せなかった。わかっていて、助け船を出さなかったのもちょっとムカつくけど。今回の指名が助け舟とか言ってたけど、やっぱり納得できない。
「だからこそ、お前を指名したんだよ」
「え」
「昨日言ったよな?俺なりの助け船だって…」
「…うん」
「もう溜める必要ない。生徒会室で思いっきり言っていい。さすがに此処まで付いてくる馬鹿はいないだろうからさ」
 確かに、コイツが好きよメンバーが新生徒会にはいない。比較的皆真面目で、成績優秀者が揃っていた。兄のときの教訓かそうなったのだろうと推測する。本当に兄の時は酷かった。兄自身がどうにかあしらっていたが、それだけじゃさすがにきつそうだったし…
「…馬鹿」
「馬鹿で結構。お前馬鹿には自信があるよ」
 なんかいまさらだけど、突発的に恥ずかしい言葉を吹っかけてくるのは気のせいでしょうか。
 やばい。今ので、絶対顔が赤くなっているのがわかる。
「勝手に言え」
 コイツのことなんか好きとかじゃない。なのに、どうしてこう胸の鼓動が激しいのか理解できなかった。
「……おふたりさーん。そろそろ俺達入っていいか?」
 入口のほうから聞こえる声に目をやると、そこには誠人が突っ立っていた。
「アンタ、何時の間に…」
「二人が良い雰囲気だから邪魔しないでいたんだけどなぁ…」
 何処が良い雰囲気だ!というか、なんでこうタイミングが良い時にアンタはいつもいる。誠人が生徒会室に入るのと同時に気づいた。
 顔を良く見ると、大きめの絆創膏が貼ってある。それに気付いて私は慌てて声をあげた。
「……昨日はごめん」
「気にしてないって。俺もからかいすぎて、ごめん」
 簡単っていうかそんな風に謝ってくれたけど、本当に悪いと思っている。その絆創膏は何処か痛々しく見えて私は声を出せなくなった。

2010/3/23

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