「会長、仕事してください」 「…今更だが、お前はどうして俺のこと“会長”って呼ぶんだ?」 「生徒会長だからです」 コイツとあまり関わりたくないのが本音だが、生徒会の仕事は思ったよりも大変で、放課後は生徒会室に籠りっ放しという日常だ。幸い、部活動に所属していなかったので時間はあるのだが、コイツは部活動に入っている手前、時間が限られている。寝むそうな顔をしていたので、横から注意を入れただけだ。 「…理由にならない」 「じゃぁ、なんと呼んでほしいんですか?」 コイツのことは“アンタ”とかでしか呼んでいないような気がしてならない。それに、今は生徒会の仕事中でアンタとか呼べるわけもない。 前年の生徒会のサポートとして参加した運動会もとい体育祭は、どうにかなった。ほとんど夏休みのうちに準備が終わっていたようで私は何もしていないと言っていい。 今、この生徒会室には私とコイツと誠人とその他の役員が数名。今日も会計の成合さんは学校に来ていなかった。数度、顔を合わせたことがあるだけで、話をしたことなんかほとんどない。体育祭の夏休みの準備期間もあまり来ていないようである。 ほんとどうしてそんな人が生徒会役員に推薦されたのかわからない。 成合稚香子。いろいろと訳ありみたいだけど、学校にもあまり来ない理由ってなんだろうとつい思ってしまう。 「昔みたいに“たっちゃん”って呼んで」 「…アンタ、それ何時の事言ってるの?」 …ぶん殴りたい気持ちを抑える。コイツ、本当に何を考えているのかわからない。 「小学生低学年のころの話かな?」 「…誠人、コイツどうにかして」 私では止められないと思い、コイツの横に座っていた誠人に話を持ちかける。 「それが、仁美の仕事だろう」 誠人はにっこり答えるが、一体いつ私の仕事になったのか教えてほしい。そもそも生徒会ってこんなに忙しいものだったのかと聞きたくなる。はっきりいって、私より会長のコイツのほうが圧倒的に仕事が多いのに、こんな量を平気にやっていた自分の兄が凄いと思ってしまう。 …いや、あの兄のことだから誰かに押し付けていたのかもしれないが、家にまで生徒会の仕事を持ちこんだりした雰囲気はなかった。副会長の私ですら、少しでも仕事量を減らそうと家に持ち込んでいるのに、これは何の差なんだろう。 「…無駄口叩く暇があれば仕事しろ。以上」 私はコイツにそれだけを告げて、自分の仕事に戻った。 いくら学校が自主的なところを認めているにしても、生徒会がこんなに大変というのはある意味おかしい。 …まぁ、生徒会がいろいろ頑張っているからこそ、生徒の要望が学校側に通るってもんだということもわかっているけど、この量を減らすことはできないのかと思いたくなってしまう。 数字や文字と睨めっこしながら、私は黙々と作業を進めた。 「…まさか副会長がこんなに大変だったとは」 「ホントお疲れ。やっぱり四役は私達委員長とかとは別に仕事が多いみたいだね」 「…そうなんだ」 仕事が終わり、今日分の報告を先生にした後、私は実夏と帰路についていた。実夏とは途中まで一緒に帰れるので、こうやって生徒会の仕事がお互いに長引いたときは一緒に帰っていた。 「まぁ、会計の成合さんが居ない分、仁美と原田君に負担がかかっているみたいだけど…」 「あぁ…だから、領収書とかそんなのがあったのか…」 もう自分の本来の仕事というのがわけわからなくなっている。一応主な仕事としては、生徒から寄せられた意見や要望等の見直し、その他、学校がこれからどうすればもっと良くなるかなどを考えたりPTA側からの要望などもまとめたり…考えただけで仕事がありすぎる。 それに、今まで気にしなかったけど、領収書とかの金勘定は会計の仕事だ。どうして気づかなかったんだろう。 「仁美、本当に大丈夫…?」 「…たぶん」 「成合さんかぁ…実夏からみて彼女はどんな感じ?」 「うーん…まぁちょっとミステリアスなところはあるかな」 「だよね…私も話したことなんてないし、学校に出てこないし…どうすればいいんだろう」 私1人が悩んでもしょうがないことはわかっているけど、やはり心配せずにはいられない。学校に出てこないのにもそれなりの理由があってからだろうし…学校側に問題があるなら、それを解決してあげたい。 「会いに行く…?」 「え」 「成合さん―――稚香子に会ってみる?」 「実夏…?」 実夏の真意がわからない。いや、実夏がどうしてこんなこと聞いてくるのかが一番わからない。 でも、これはチャンスだと思った。成合さんに近づくことのできるチャンス。学校に出てこない限りなかったはずのものが目の前にあるのだ。 「実はね、稚香子とは従姉弟なの…」 「従姉弟…?」 突然過ぎる。でも、実夏と成合さんが従姉弟だなんてこと知っている人なんているのかな? 「特に稚香子の家はゴタゴタしすぎていてゆっくりできないのが原因かな…」 「ゴタゴタって?」 「…家庭の事情っていうやつ。詳しくは言えないけどね」 家庭の事情ならしょうがない、で片付けてしまう人もいるかもしれないけど、なんだかほっておけなかった。 「本当は学校に行きたいって言っているよ。出席日数もギリギリだしね…」 「会いにいこうか」 「…仁美ならそう言ってくれるって思っていた」 「実夏のほうから聞いてきたのに」 「そう…だね」 さっきまでの疲れも何処かに吹っ飛んでいた。なんとなく、成合さんのことを知ろうと思ったからかもしれない。 よくわからないけど、彼女のことをもっと知りたいと思えたから仕方ない。 「よーし、今すぐ行こう!今すぐ!」 「って、こんな遅くに行ったら迷惑だよ」 確かに迷惑かもしれない。時刻は既に8時を越している。これから2人して押し掛けるのもどうかとも思うが、今の私にそんなことを考える余裕もなかった。 「気にしない、気にしない。さっさと連れてって」 私は実夏の腕を引っ張りながら、半強制的に成合さんの家まで案内させた。 2010/4/4 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |