ピンポーン。

 私はインターホンのチャイムを押した。電気もついていることだし、誰かいるのは確かだ。
 実夏に半強制的に案内させ、成合さんの家の前にいる。家はやはり立派というか、お金持ちであろうと言うことが外見からわかる。
 私がルンルン気分で此処までやってきたので、実夏は今日はやめとこうよ、と何度も止めたが、今日行かないと私は二度と行かないと思うなど勝手な言い分を言って連れてきてもらった。もとはと言えば、実夏が会うかと聞いてきたのだから、実夏の言い分を聞くわけにもいかない。
 自分でも本当に勝手だと思うけど、やっぱり不登校気味の生徒会会計の成合さんに会ってみたいと思ってしまう。
『はい』
 インターホンに出たのは男だった。けど、何処かで聞いたことがあるような声なような気がしてならない。
「あの二葉高校の神野と申しますが…稚香子さん、いらっしゃいますか?」
『…仁美、お前何でこんなとこにいるんだ?』
 自分の名前を呼ばれた瞬間、この男が誰か気づいた。というか、アンタのほうこそどうして此処に居る。用があるといって生徒会の仕事をほっぽり出したかと思えば、成合さんのところにいるとは何なのよ!
「それはこっちの台詞だって!原田君、なんで稚香子の家に…しかも、インタホーンにまで出てくるってどういうこと?」
『…秋月、お前もいたのか』
「ちょっとアンタ説明しなさいよ!用事があるって言って生徒会の仕事を私に押し付けたくせに何してんのよ!」
『いや、これにはふかーい訳があってだな…』
 訳など聞きたくなかった。それと同時に、私が此処にいるのは間違いだと思ってしまう。

 …なーんだ。コイツと成合さんってそういう関係なんだ。

 ただでさえ、私とのことで変な噂になっているのに、実際は彼女いたんだ…
 ……アレ、じゃぁなんでコイツは私に告白してきたんだろ…わけわかんない。

「実夏…」
「ぇ」
「私、帰るわ」
「って、仁美…っ!」
 その場に居るのがなんだか嫌で逃げ出した。そのとき、実夏が呼んでいる声さえも既に耳に入らなかった。
 頭の中が混乱していた。アイツが成合さんの家に居たことに動揺してしまっていた。どうしてそんなことが起こっているのか私自信わからない。でも、明日になれば大丈夫。自分でそう言い聞かせた。
 家に帰った後で携帯を確認するとアイツからのメールが大量に届いていた。だけど、どれも確認する気になれなかった。その途端、急激な眠気がやってきて私は制服から着替えてもいないのに、夕飯も食べていないのに、お風呂にも入っていないのに、ベッドに倒れて寝てしまった。


「行ってきます」
 いつもより早く起きた。といっても、寝るのが早かったのが原因だってわかっている。制服にしわができてはいたが、あんまり目立っていないので良かった。
 家から出ると、玄関先にアイツがいた。
「…仁美」
「おはよう」
「…おはよう……あのさ……」
 コイツの話など聞きたくなかった。だから、無視と決めつけていた。別にコイツが何をしようが勝手なわけで、私が思うことなんて何もない。
「何か用?学校、遅刻するよ」
「って、お前怒っているだろう?」
 怒っているかと聞かれたら怒っているのかもしれない。でも、怒っている理由も明白にわからない。
「…怒ってないよ。ただ、昨日は驚いただけかな…」
 まさかインターホンにアイツが出てくるなんて思いもしなかったし、突然過ぎて頭がパニック状態になったのは本当のこと。ただ、どうしてあの場から逃げるように立ち去ったのかもなんとなくわかっていた。
 それは、私という存在が邪魔だということ。
 …少なくとも学校では、私とのことで噂を立てられているんだし、家とかで会わないといけないんでしょう。
「仁美、何か勘違いしてるだろう?」
「別に勘違いとかしてない。ごめんね、気づかなくて。成合さんとお幸せに」
 私はそれだけを告げて、自転車の鍵をはずし、猛スピードで学校に向かった。
 いまさらだけど、アイツとの接し方がわからない。昔みたいに普通に接することができる日が来ると信じたい。まさか、たったアレだけのことに動揺するなんて私らしくない。


「仁美ったら高志を振り払って来たんだ…」
「…全く事情を話していないのに、なんか全部知っているっていう顔をしているのはどうしてですか?」
 学校に着き、教室に入るとりっちゃんに話しかけられた。
 その一言は昨日のことも今朝のことも全部わかっているという口ぶりだ。
「私の情報網を甘く見ないでよ。仁美に関することなら何だって仕入れているんだから」
「…プライバシーの侵害じゃありませんか?」
 いつも思うけど、りっちゃんって何処から情報を仕入れてくるのかわからない。絶対裏で糸を引いている人が思うんだけど、それが誰なのかという心あたりもない。
「まぁそこんとこは気にしない、気にしない」
「…いや、気にするって」
「でも、今回のことで仁美がようやく自覚し始めたって思うと…きっと誠人が喜ぶと思うなー」
「自覚って何よ?んで、誠人が喜ぶって?」
 りっちゃん1人がテンションハイな気がして、私は置いていかれている。このテンションの差が何かと聞きたい。というか、私は別に自覚も何もしてないんだけど…
「無意識っていうところがまたかわいい」
 語尾にハートマークがついているような気もするけど、無意識って何。かわいいって何。私は別にいつもの私なのですが。
 もうりっちゃんについていけないところに、実夏がやってきた。
「仁美、昨日は大丈夫?」
「うん。ぁ、でもごめんね。急に帰っちゃって」
「私のほうこそなんだか申し訳ないような気がしてなんないんだけど…原田君との仲がこれで拗れたらって思うとさ…」
「…なんでそこでアイツが出てくるわけ?」
 別にアイツとの仲なんて特別なわけでもないのに、どうしてそんなことを言われるのかわからない。いつものことだけど、皆してアイツとのこといろいろと言われてきてうんざりしているんだけど!
 私のその言葉に呆れたのか、二人ともため息を漏らした。
「ホント」
「仁美って」
「…鈍感だね」
 “鈍感”のところだけ二人揃って強調して言った。
 …一体何が鈍感なのかということをいい加減説明してほしい。

2010/4/18

Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved.