りっちゃんと実夏は完璧に呆れている。別に悪いことをした覚えはない。だから、どうしてアイツが出てくるか教えてほしい。
「…何が鈍感なのよ」
「無自覚は罪っていうけど、此処まで無自覚とは…」
「だから説明しろ!」
 2人は説明する気はないらしい。目から自分で気づきと言っているとしか思えない。
 気づかない私もいけないかもしれないけど、教えてくれないならわからないに決まっているじゃない。
 私も我慢が限界だ。
「…お前等、仁美を責めるなよ。今に始まったことじゃないんだから」
「誠人…どういうことよ…」
 いつから話を聞いていたのか誠人が話に入ってきた。
 同じクラスなのだからいてもおかしくないのだが……神出鬼没と言いたくなってしまう。それにしても、コイツはどうしてタイミングよくいつも現れる。
「俺は付き合いが長いから、仁美が理解していないっていうのはよーくわかっているから」
「なんかそれ、ムカつく」
 誠人の言い分もわからなくはないが、やっぱりそれでも納得いかない。
「んで、仁美の何に鈍感って告げているわけ?今に始まったわけじゃないのにさ」
 私のことなんか無視のようで誠人はりっちゃんと実夏に聞いていた。直接、私から聞けばいいものを…と思ってしまうが、なんとなく答えたくもなかった。
「えっとね……」
 りっちゃんが小声で誠人に伝える。
「仁美が高志に嫉妬したみたいなんだよねー、しかも無自覚で鈍感なところがまたかわいいなって言っていたの」
 ……嫉妬?
 私がアイツに嫉妬してる?
 ははは……有り得ない。りっちゃんったら、何をふざけたことを言っているのやら。
「俺は今、猛烈に感動しているぜ!…あぁ泣きそうになってくる」
 なんか誠人の野郎が勝手に喜んでいるようだけど、私は納得できない。
「というより、私が嫉妬しているって何よ…」
「だって状況からみてそうじゃないの?」
「別に私はアイツのことはなんとも思ってないし、昨日はただ驚いただけだし」
 アイツが普通出てくるなんて誰も思わないし、アイツと成合さんが付き合っているってことに驚かずにして何に驚けっていうのよ。
「驚くって…何に驚いたんだよ」
「昨日、成合さんの家でインターホンに出たのがアイツだったの」
「アイツって……高志?」
 私は首を縦にふり肯定した。
「……なんで高志が成合んとこにいるんだよ?」
「知らないわよ。直接アイツに聞けば?」
 私のほうからは聞くつもりはない。アイツは何か勘違いしているとか言っていたけど、聞く耳なんて持ってられない。
「オイ、秋月!お前は何か知らないのか…?」
「一応、聞いたんだけど…稚香子も原田君も話せないって言われてさ」
 話せないってことは知られたくないことってことでいいでしょう。だったら、答えは1つ!付き合っている意外に他にない。
 といっても、これで私とりっちゃんに実夏、それに誠人が知ったことになるんだから、話せないって言ってもバレタに近いんじゃないでしょうか…そもそもアイツには親衛隊かなんだか知んないけど、プライベートまで何故か調べていらっしゃる方々がいるのだから、バレルのも時間の問題としか思えないんだけどね。
「あの野郎……何を考えているんだか……」
「まぁ、大人しく私達は見守っているのが一番良いって思ったんだけど……誠人的にはそうにもいかないってわけ?」
「当たり前だろ!あの馬鹿が…!」
 …なんか私、また置いて行かれていません?別にほっておいて良いと思うのですが、それは納得できないということですか?
 誠人は椅子に座ると、頭を抱えていた。別に何か問題があるわけでもないんだから、考える必要もないことだと思うんですが、誠人にとっては違うみたいですね。
「で、これからどうするか教えてくださいません?」
「ちっ…千晶ちゃんっ!」
 千晶ちゃんがいつの間にか、話に加わっていたようで……それにしても、どうしてそんなことを聞いてくるのか私には理解しがたい。だって、千晶ちゃんってアイツの親衛隊のリーダーか何かでしょう?なのにどうしてそんなことを聞いてくるんだろう。逆に私という邪魔者が消えて嬉しいのか、私とは別の人と付き合うことに嬉しいのかよくわからなかった。
「何をそんなに驚かれているのですか?驚くところ間違っていますけど」
「一体いつから話を聞いていたのか教えてください……」
「始めからですが…何か?」
「いえ……なんでもありません」
 千晶ちゃんも千晶ちゃんで相変わらずで、もう何も言いたくありません…というより、放っておくという選択肢はこの人達の中にないのでしょうか。だって、別にどうでもいいことだと思うんですけど。
「とりあえず本人に聞くのが一番良いと思うんだけど、珍しく高志の奴来てないし」
「……今朝は元気そうだったからそのうちくるんじゃない?」
 朝会った時は制服来ていたんだし、そのうち待っていれば来ると思う。確かに、時計を見ると既に7時20分で、いつものアイツならとっくに来ている時間だった。
「って、会ったのかよ!」
「……朝ね、仁美の家の前で待ち伏せしていたみたいよ」
「はぁ……あの野郎は何を考えているんだか……」
 誠人が溜息つく必要はないはずなのに、どうして溜息をつくのが疑問だった。当事者はどうでもいいって言っているのに、どうして周りが騒ぐのかもわからない。はっきりいって、もうどうにでもなれって感じだった。
「で、なんて言っていたんだ?」
「…別に。私が怒っているとか勘違いしているとか言っていたけど、知らないし」
 朝の会話を思い出すけど、朝の挨拶をしてそれだけしか話していないような気がする。
「なるほど。だから鈍感って言っていたのか……」
「ね?わかったでしょう?」
 誠人が納得したようだったけど、結局何が鈍感なのか教えろって言いたいが、あえて言わないでいた。どうせ言ったっても教えてくれないと思うからだ。
「今は高志がどうして昨日、生徒会をサボってまで成合の家に居たのかっていうのが問題だな…あの野郎、俺にまで仕事押しつけやがったんだからな!」
 結局は逆恨みってことですかね。でも、私もどうして生徒会の仕事を押し付けてまで成合さんと一緒にいたのかは謎だった。付き合っていると勝手に思い込んだのは私だけど、生徒会が終わってからだって会おうと思えば会えるわけで……
 その後、いろいろと誠人とりっちゃんを中心に討論したけれど、どれも納得できるものじゃなかった。そして気づくと0限が始まる時間ギリギリだった。
「あー…やべぇな、先公が来るからそろそろ席についていないとな」
「結局高志も来なかったし…アイツ、今日欠席なの?」
「でも朝、仁美は原田君に会ったんだから来るんじゃないの?」
「じゃぁ、遅刻なのでしょうかね。とりあえず来てからいろいろと問いたださなくてはなりませんが……」
 本当に私だけが置いて行かれている……しょうがないって言ったらしょうがないのかもしれないけど、なんだか心に靄がかかったままだった。

2010/5/2

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