結局、その日アイツは学校に来なかった。 休み時間に誠人が、アイツの携帯に連絡してみたが、返事はなく気づけばすでに放課後になっていた。 「で、アイツの家に押し掛けるってわけ?」 「当たり前だろう。仁美は気にならないのか?」 気にならないと言ったら嘘になるが、これはアイツと成合さんの関係なのだから、そっとしておくのが一番良いのではないかと思ってしまう。 「別に。それより、どうして私とアンタしかいないわけ?」 りっちゃんや千晶ちゃん、実夏は此処にはいない。 今日の生徒会は休みだと誠人から告げられたのはホームルームを終えてからだった。今まで生徒会の仕事を休むということがなかったため疑問に感じた。でも、たまの休みとまではいかないが、こんな日こそ早く家に帰って勉強しようとすぐさま家に帰ることにした。 その帰宅途中、誠人は私の後方にいた。家は逆方向だが、何か用事があるのだろうと思って別に気にしていなかった。しかし家が目の前に見えてきて、アイツの家の前を通り過ぎる手前で私の前に自転車に乗った誠人が現れた。 先ほどまで誠人は私の後ろに居たのは間違いない。ある程度の距離を置いて私は自転車を押していたのに、それは突然のことで私は困惑する。何時の間に先回りしたのかも分からず、こんなことなら自転車を漕いでおけば良かったと後悔してしまう。 目の前には自分の家が見えるのに、家に帰れないって地獄じゃないかと思う。気になると言っても、私には関係ないことなのだから、勝手にやってほしいのが本音だ。 「まぁ、大勢で押し掛けるのは心許無いんで、代表として俺と仁美ってわけ」 「…私はいかないわよ。それより、何時の間に先回りしてんのよ」 「お前が遅いだけだろう?まぁ、せっかく生徒会サボってんだから、会長を懲らしめる意味も兼ねてね」 「って、本当はあるの?生徒会!?」 生徒会四役が一気に居ないって…あぁ、生徒会の残りの皆さんに迷惑をかけること間違いない。 今からでも遅くないと思い、私はすぐさま学校に向かおうとしていたが、それを誠人に止められた。 「ある。普通、あんなに忙しい生徒会が休みになるなんてことはないと思ったほうが懸命だな。それにこうでもしないと、仁美を高志のところに連れて行けないだろうが!」 「知らないわよ!!」 私は関わりたくないんだけど、そんなことはおかまいなしらしい。というより、私の行動パターンをよく理解しているうえでの結論らしい。お休みと言われたらさっさと家に帰りますよ。それの何処が悪いというのか。 「とにかく行くぞ」 「……わかったよ」 いつまでもアイツの家の前で口論しているわけにもいかない。しぶしぶ承知したうえで、誠人の奴はインターホンを押した。すると、インターホンには出ず、玄関の扉が開いた。 「あの…どちらさまですか?」 女の人だった。でも、アイツは1人っ子で女の人がいる理由もわからない。母親が大幅なイメージチェンジをしたのかも知れないとも思ったが、声そのものが違うので明らかに別人だということがわかる。 「…なんでお前が此処に居るんだよ、成合」 誠人が名前を出して初めて知った。この人が成合さんなんだ……アイツの彼女。 人の名前と顔がなかなか一致するのが苦手だったが、名前を言われると思い出す。確かにこんな感じだった。 ショートカットで、ちょっと独特の雰囲気を醸し出していたのを思い出す。今は私服で、今時の女の子って感じの服装だった。 「えっと…田中君に神野さん、何か御用ですか?」 …クラスが同じではないのに、私のことを知っているとは思わなかった。生徒会が一緒とかいっても、口をかわしたことがほとんどないのに覚えているなんて凄いとしか思えない。 「高志を出しやがれ。こうなったらアイツから全部聞くまで帰らねぇからな」 「…たっちゃん、呼んで来ればいいの?」 “たっちゃん”という昔のアイツの呼び名を聞いてそこまで親密な仲だということに気づかされる。それよりも、この歳になってまで“たっちゃん”って何事かと思ってしまう。こないだ生徒会室でアイツに何か言われたことがあったような気もするが、実際に呼んでいる人がいるとは思わなかった。親とかならまだ分からないでもない。だって私の兄貴も未だに母親からは“あーちゃん”と呼ばれているくらいだ。 「おう!高志出しやがれ!アイツじゃないと話にならん!」 誠人はアイツをどうにかしてでも出してもらおうとしているが、もうそんなのどうでも良かった。 昨日みたく、もうこの場から逃げ出したかった。 「稚香、一体誰だったんだ……って、誠人に仁美……」 成合さんが戻ってくるのが遅かったからか、アイツが玄関に出てきた。その顔は明らかに驚いていた。 それに今、“稚香”って名前で呼んだ。本名は稚香子だったと思うけど、名前を短縮で呼ぶくらい仲がいいのだろう。 「…さぁてと、全部説明してもらおうか?」 「説明って言われても……」 アイツは口を濁した。つまり、それが全てだということだ。 私は何も言わずにその場を立ち去ろうとした。後は誠人に任せても大丈夫でしょう。そもそも私が此処に居る理由すらない。 「…っ、待てよ!仁美!」 帰ろうとしたのがわかったのか、アイツは叫んだ。その声に私は耳を傾けず、何も言わずに、さっさと自分の家の扉を開けた。 扉を閉じたとき、何故か胸が締め付けられた気がした。 脳裏にはアイツと成合さんが並んで幸せそうな様子が浮かぶ。 あの2人が幸せならそれで良いと思っていた。実際に、私は邪魔ものでいない存在であるはずなのに… 「……わけわかんないよ」 アイツが言う私の勘違い。 りっちゃんや実夏達が言う鈍感、嫉妬。 答えがわからないものが頭の中をぐるぐる回っていた。 2010/5/16 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |