今日は、勉強しようと思っていたのに、机に座って教科書や参考書を開いても手をつけられずにいた。考えたくないのにアイツのことを考えてしまう。突然過ぎて、私の思考回路も停止寸前だった。
 結局の結論はアイツと成合さんが付き合っている、ということで解決してしまう。でも、その答えに納得できない自分がいる。
 人の幸せを壊すつもりなんてない。だけど、アイツの告白はなんだったのかと疑問に思ってしまう。ちゃんとした返事をしなかった私がいけなかったのかもしれない。
「……なんで私が悩まないといけないのよっ!!」
 溜まっていたものが一気に爆発してしまった。うじうじしていてもしょうがない。昨日と今日でわかったことは1つだけだった。
 アイツはアイツ、私は私。人の人生を曲げてしまう行為はしないでおこう。私という存在が邪魔ならば、邪魔にならないよう目立たないように過ごすだけ。ただでさえ、兄が有名すぎて目立っているのだから、直ぐに目立たないよう生活を送ると言うのは無理かもしれないけどやるしかない。
 ただ問題が残るとしたら、アイツとの関係を誤解している人物をどうするべきか……ということだ。
 ……というより、アイツも誤解を受けたままだと嫌だろうから協力してもらおう。私が言ったら説得力はないかもしれないけど、アイツが言えば皆信じるでしょう。よし、アイツが学校に来たらアイツに全部説明してもらって誤解を解いてもらおう。
 ポディティブに捉えて考えてみると、なんだか心が重かったのに一気に軽くなった。
 そもそも私はアイツとのことでいろいろと言われているのが嫌でしょうがなかったのに、今回の出来事はそれをやめさせるチャンスじゃないかと思ったのだ。
 今後周りからは絶対に“鈍感”とは言わせるものか!
 ……ただ気になるのは、約30分置きに来るアイツからのメール。チェックはしていない。なんとなく怖くて開けずにいた。確認するのも鬱陶しくて、マナーモードに切り替えたものの、メールのお知らせのライトは点滅しっぱなし。
 アイツからじゃないメールも入っているかもしれないけど、そもそも私が携帯放置しているということは周りの皆が知っているので、メールを送ってくることなんてほとんどない。どうせメールを送っても返信しないことが多いとわかっているからだ。
 私も私で常に携帯はバイブなしのマナーモードか電源そのものを切っているので、携帯という便利な物を利用することなんてほとんどない。そりゃぁ、買ってもらったばかりのころは便利がいいなとは思ったけど、携帯なんて必要最低限電話が出来ればいいと思うし、メールにしたって、必要最低限の連絡事項くらいで良いと思う。迷惑メールとか本当に嫌になるし、しょうもない話で何度もメールのやり取りをするのもどうかと思ってしまう。それだったら直接電話で話せと言いたくなることもしばしばある。
 ……今時の高校生の必需品アイテムである携帯をそんな風に思ってしまう私もどうかと思うけど、携帯という便利な道具に頼り過ぎるのもどうかと思ってしまう。
 あの野郎、メールではなく、用があるなら直接言いに来いといいたくなってしまう。しつこすぎるメールなんか無視して勉強を始めることにした。よくわかんないけど、先ほどまで止まっていた手がスムーズに動き始め、頭の回転も先ほどより良いのがわかる。
 生徒会はサボったことになるんだけど、久しぶりに勉強できるのだから良いことにしよう。もうアイツのことなんか知らない。アイツはアイツの道を進めば良いと思う。
 ……アレ?突然思ったけど、この展開って少女漫画とかでよくある失恋した女の子が開き直る展開と似ているような気がするんだけど……まぁ、いっか。

「おはよう」
 翌日はすっきりとしていた。幸い週末のため、今日を終えれば明日から2日は休みになると言うことが嬉しすぎてしょうがないのかもしれない。昨日と一昨日の出来事は既に風化しているに近かった。元々、物事を忘れやすいからか、頭の中ではどうでもいいこととして片付けられているのがわかる。
「おはよう、仁美。で、昨日は何かわかったの?」
「何かって……?」
 結局は、アイツと成合さんが付き合っていたという事実が証明されただけだ。これってわかったことに入るのかもよくわからない。
「だから、高志のこと!私のところに情報が回ってこなかったんだもん。誠人から聞き出そうと思っていたんだけど、誠人のやつは何も言わないし……だから、何かあったのかなーって」
「なんにもなかったけど?」
「仁美の様子見る限り、仲直りしたとか??」
「え、なんで?昨日、アイツの家から出てきたのが成合さんだったから、こりゃぁ付き合っているという意味じゃないの?」
 私がりっちゃんに告げると、りっちゃんの顔は驚いていた。それと同時に一瞬にして教室は静まり返る。一瞬の沈黙の後、次に帰って来たのは、驚きのものだった。
「はぁあああああああああああああああああああああああああ?」
 クラス中が驚きの声をあげたのだ。というより、何勝手に人の話を盗み聞きしているのか教えてほしい。それに、驚くのは私のほうである。何故にそんなに驚くのか説明を求めたい。

「はぁ?あの馬鹿は仁美一筋じゃなかったのか?」
「というか、よりにもよってなんで成合?俺狙ってたんだけど」
「いや、そんなことを此処でカミングアウトするのもどうかと思うけどさ、一体いつの間に仁美を諦めたのか説明してもらわねぇと」
「つまりは仁美を狙ってもOKってことなのか?つか、高志のやつが成合と付き合うってことはそういうことだよな」
「高志くんが付き合っているなんてショック!」
「たとえ原田君に好きな人がいても、誰とも付き合っていないから私達の王子様だったのに……突然過ぎて嫌になる!それに、神野さんじゃないってことももう嫌ああああああああ」
「良い男が人のものになるっていうの一番嫌よ」

 ……なんか周りが勝手なことを言い始めたような気がする。次から次に私の耳へと入ってくる。それを聞いていると、アイツは私のことが好きだとからかっていた奴等は、そんな風に見えていたということね……あぁ、本当に鈍感だと言われ続けた私が今になっていろいろとわかってしまい、自己嫌悪に陥りそう。さらに、アンタ達がそんな反応をするのがとてつもなく嫌だ。
「……それってどういうこと?」
 りっちゃんだけが冷静に聞いてきた。さすが、りっちゃん。驚いたままの顔だけど、他の奴等とは違って冷静に判断しているようでよかった。
「アイツの家を訪ねたら、出てきたのが成合さんだったっていうだけど」
 インターホンを押したら、インターホンには出ずに成合さんが出てきた。そして、続いてアイツも出てきて、成合さんのことを名前で呼んでいたから、アイツと付き合っているのは明白でしょう!たとえ、付き合っていなくても特別な関係なのは間違いない。そもそもアイツが女の子のことを名前で呼んでいるのって私だけの様な気がしてならない。
 ……アレ?それだけなら、私も特別な関係ってなるのか?いや、幼馴染で昔からの習慣のだけだ!それ以外何にもない!そもそも、小学生からの付き合いが私と誠人ぐらいしかもう残っていないのも事実だし、私以外にも中学時代も名前で呼んでいた女の子が……いた記憶がない。たとえいなくても、成合さんとは名前で呼び合う関係だと言うことはわかっているんだから、付き合っている以外の結論があるなら教えてほしい。
 ただ疑問に残るのは“たっちゃん”という昔の呼び名で呼んでいたことだ。そんなに昔からの付き合いだったのかと思ってしまう。それとも、アイツのほうから呼ばせているのかのどちらだろう。
「……で、アイツの口から付き合っているとか聞いたわけ?」
「聞いてないけど」
 するとまた一瞬、沈黙の間ができる。
「なるほど。仁美じゃ話になんないわ」
「どういうことよ……」
「ちゃんとした証拠じゃないから。アンタがいつも言っていたでしょう?証拠出せって。そんな証言だけじゃぁ、証拠になんないって」
 確かに私は物的証拠を出せと言ってましたよ……でも、実際に見たのを伝えているのに証拠にならないと?
「だったら、誠人の発言も付けたらどうする?」
「まだ、誠人のほうが信用できるわ」
「私のことは信用できないと?」
「……今回の件ではそうなるわね」
 なんだか頭にカチンと来てしまう。事実を言っているだけなのに、信用できないって何よ。りっちゃんがそう言う人だとは思わなかったわよ!
「りっちゃん……」
「そんな情けない声出さないの。信用できないっていうことじゃないの……高志をぶん殴りたいって気持ちはあるけどね」
「は?」
 落ち込んだが、そんなに情けない声を出したつもりはない。それよりも怒りの矛先がアイツのことに驚いた。
「アイツから全部聞かないと納得できないって言うことよ」
 なんか昨日も誠人の野郎がそんなこと言っていたような気がするけど、どうしてそうなる。別にもう見たままなのだから別にほっておけばいいのにと思ってしまうのは私だけみたいだ。
「……長谷川、その辺にしておけよ」
「って誠人、おはよう。それよりどういう意味?事情分かったの?」
 誠人が教室に入ってくると、クラス全員の視線が誠人に移った。なんか私が言うのもなんですけど、どうして皆さんそこまでアイツのことに興味があるのか教えてください。
「全然」
「……それってわかってないってことよねぇ」
「まぁ、そうなるな」
「で、何が言いたいわけ?」
「うーん……そのうちわかるさ、本当のことがな」
 本当のことって付き合っているってことじゃないの?しかも、その話し方だと何か知っているって言う雰囲気が駄々漏れなんですけど。
「だから、付き合っているで解決で良いでしょう?」
 こんな言い争いの繰り返しいつまでもやっているつもりはない。もうこの問題というより出来事は終わっているんだから、そこまで熱くなる必要もない。
「よくない」
 りっちゃんと誠人は2人合わせて私に言って来る。私はどうでもよくても貴方達がどうでもよくないってことはよくわかった。
 幸い、0限開始の時間まであとわずかでざわついていたクラスが落ち着きを取り戻し始める。りっちゃんと誠人の2人は納得していない様子だったけど、席について授業の準備を始めているところをみると朝の悶着は終わりだろう。
 今日は実夏と千晶ちゃんが話に入ってこなかったけど、クラスの傍らでその様子を見守っていた。というより、私の発言が原因でクラス中が騒ぎ始めたのが原因で、それに巻き込まれたと見るべきだろう。普段は実夏や千晶ちゃんのグループとは違うんだし。
 ……でも、今日もアイツは朝の時点で学校に来なかった。

2010/5/30

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