授業、SHRが終わり、今日もあと少しで1日が終わる。この後は生徒会の仕事だ。 結局、アイツは学校に来なかった。いい加減来てもらわないと生徒会の仕事が溜まると頭を抱える。とはいっても、アイツが休んだのは2日だけなので、普通の風邪とかで休む日数くらいと考えれば長い期間でもない。しかし、アイツは健康で、休む前日は生徒会をサボっているのだから、怒りが湧いてくるのは仕方がないこと。これが風邪ならば、体調を心配するけど……今回は、心配する必要もない。 そもそもどうして学校を休めるのかが謎だった。私達が通っている学校は、出席に関しては特にうるさい。熱が出ていても簡単に学校を休めない。「熱は38度以上でなければ休むな」と言われている。体調が悪いので休むと連絡したが、昼頃に先生が車で迎えに来て強制的に学校に連れてこられたという話もよく聞く。ついでに、体調を崩して保健室に行くとベッドで横になりたいのに、逆に保険医によるカウンセリングになってしまうこともしばしばある。そして、早退は熱が異常に高い、急いで病院に行ったほうが良いという場合などしか適応されない。本当に頭痛や腹痛が酷くても横になることができず、直ぐに教室に追い返される。 学校を休んだ場合教師から電話があり、午後からでも良いから学校に出てこいという連絡が出るのが当たり前なのに、アイツは学校に出てこない。特別な事情なのかも知れないと今更ながら考えてしまう。たとえそうだとしても、事実として成合さんとの2ショットが確認されているのだ。その特別な事情を逆に知りたくなってしまう。 成合さんの場合、半分不登校気味だったからそんなことを教師がやっていたのかはわからない。でも、少なくともアイツには教師からの連絡があったと思う。 来週には学校に来ると思うし、もう今回の件はこれにて終了することにした。 ……私の中では片付いたこととして生徒会に行く準備をしていた。昨日サボった分が少し恐ろしく感じてしまうが、誠人の野郎が騙したのがしょうがない。しかも生徒会四役が誰もいないってあってもいいことなのかと思ってしまう。 「どうして……」 「……いや、それよりあの話って本当だったの?」 気がつくと何故か騒がしい。何かあったのだろうかと視線を廊下側に移すとそこにはアイツと成合さんが制服を着て立っていた。これはもう二人揃って学校に来たなんてもう付き合っていること間違いなし!というより、それを堂々と見せるなんてアイツもやるなと思ってしまう。 「ったく、授業が終わってからの登校ってどういうことだよ」 誠人が怒っているのがわかる。そして、それが正論だということも。今頃学校に来るなんて何をやっているのか教えてほしい。生徒会の仕事をするためにやってきてくれたんなら良いんだけど……なんか嫌な予感がしてならないのはどうしてだろう。 「お前が昨日、俺を殺しかけたからだろう……」 「……全部喋らないお前が悪い」 「本当に無茶苦茶だな」 「文句があるなら、仁美に言えよ」 「って、なんで私!」 遠くからだが反論した。教室はざわめいていたが、それでもコイツと誠人の会話は明らかに聞き取れた。ざわめきもこの会話に対してだったようで、クラス全員の関心はこちらに移っていたようだった。 もうこの件に私を巻き込むのはやめてほしい。なんだか私だけが冷めていて、周りだけが重要問題のように取り扱っているので対応にも困ってしまう。 「当事者だからだろう」 「私はどうでもいいんだけど……てか、なんで授業終わってから学校来てんの?てっきり休むと思っていたけど」 教科書などを詰め込んだ鞄を手にアイツがいる入口付近に近づいた。 「俺も今日までは休もうと思っていたんだがな……」 「だったら今すぐ成合さん連れて帰れば?デート中でしょ?」 「はぁ……やっぱり、勘違いしているみたいだな」 溜息混じりでアイツが呟く。勘違いしていると言われても、私は冷静に判断しただけなんですけど……確かに、アンタの口から話を聞いたわけじゃないから、私の勝手な推測でしかないけども、強ち間違いじゃないでしょう! 「は……?」 「誠人、仁美貰って行くわ」 アイツは私の手首を掴んだ。というか、今日はこれから生徒会の仕事をしたいんですけど、アンタも付き合えというか……これから生徒会室に行って仕事しろ。 「ってオイ!俺達への説明は?」 「成合を置いて行くから、成合から聞け」 私はこのままコイツに連れていかれるのは決定なのですか?どうして誰もそのことを突っ込まないんですか?私は別にことの真相を知りたいとは思っていないのだから、ほっておいてくれていいと思うんですけど。 それよりもどうして今日は成合さんのことを“稚香”と呼ばないのかも謎だった。学校だからという簡単な理由で終わるようなことじゃないと思う。 「何勝手なこと言っているわけ?私はこれから生徒会室で仕事なんですけど。アンタに付き合っている暇はないの。つか、休んだ分アンタも仕事しろ」 絶対に私の言い分は正当なこと。誠人や実夏は何にも言わないけど、生徒会長の仕事が一番多いってこの人自覚ないんじゃないのって思いたくなる。 アイツの顔を睨みつけると、アイツは笑っていた。 「……高志、仁美の言うこともわかる。だが、事がでかくなっていることを自覚しろよ」 「でかくって……どれだけ大きくなってんだよ。俺、何も悪いことしてないけど」 「……たぶん学校中にお前と成合が付き合っているという新情報が今朝から広がっていると思う」 「はぁ?なんでそんな誤情報が広がってんだ?そもそもどうして俺が成合とそういう関係になるのかわかんないんだけど」 コイツもわけわかんないことを言っている。二人揃ってやってきた時点で、付き合っているんじゃないのでしょうかね。何か文句が言いたいけれども、私が入ったことで話がややこしくなるのは避けたかった。 そしていい加減に私の手首を離してほしい。 「だって仁美が……」 そう言ったのはクラスの男子だ。誠人は私の考えにどちらかというと反対だったため、こんな情報を信じていないと思う。 「なんだと……」 すると、先ほどまで笑っていたのにコイツの顔は曇った。完璧に怒っていることが分かる。でも、怒る場所も違うような気がしてならない。私はとりあえず、反論しようと決意した。もう話がややこしくなるとかそんなこと言ってられない。 「事実、成合さんの家にアンタがいて、アンタの家に成合さんがいたら、そう考えるのが普通じゃないの?しかも、生徒会サボってまでいるってことはそういう関係じゃないかって思っただけよ。というより、離してくれない?アンタに付き合っている暇なんかないんですけど」 「なるほど……なんとなく状況が読みこめた。お前、メールも見てねぇだろう」 「見てなかったら何よ?アンタのメールしつこすぎてウザいんですけど」 30分置きにメールをするなんてストーカーといっても過言じゃないと思う。もうあのときは無視と決めつけていたし、勉強の邪魔をされるのも嫌で携帯なんか見向きもしなかった。 「……誤解させるようなことして悪かった」 「別に、アンタの人生なんだから、アンタが好きなことすればいいんじゃないの……ってことで、いい加減に離しやがれ」 真実なんてどうだっていい。とりあえず、コイツから離れたい。なのに離してくれる気配はない。 「で、真相はどうなんだよ?全部説明しないと仁美以外は納得しないと思うしさ」 「……あまり人に話すことでもねぇんだけど、とりあえずは成合との関係は誤解だってことはわかってもらいたいな」 「だったら証拠だせ。というより、全部話せ」 「わかった……真相は実際に現場を見たやつと長谷川には話すから他のやつはそいつ等から聞いてくれ」 ……となると私も含まれるってことになるか。要するに成合さんの家での目撃者である私と実夏、それにコイツの家でそれを見た誠人と何故かりっちゃんには話すというのか。というか、そんなめんどくさいことせずとも今ここで全員に話せば早いと思ってしまうのは気のせいだろうか。 「ついでに、もう説明するのは面倒だから俺の気持ちだけは此処にいる全員に教えといてやるよ」 すると次の瞬間、手首を引っ張られて私はアイツに引き寄せられた。それと同時に持っていた鞄を落としてしまい、いつかと同じような展開が待っていた。 目の前に見えるのはアイツの顔。唇に触れているのは、いつかと同じ感触。 「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 周りの叫び声(特に女子の叫び声)が聞こえるなかで、私は1人固まっていた。 どうしてもこうもまたこんな展開になってしまったのだろうか頭を悩ませる。 離れようと力を入れてもコイツの力に勝てないで、されるがままになっていた。 2010/6/13 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |