アイツの家、アイツの部屋。5人入るには少々苦しいかとも思ったが、アイツの部屋は広くて余裕だった。
 久しぶりに入るアイツの部屋に驚く。きちんと整理整頓されていて、怪しく如何わしいものなどは見当たらない。もしかしたら、私達を連れてくることを前提にしていたから何処かに隠しているのかもしれないけど、物がなくなった形跡もなかった。
 誰も喋らなかった。空気が痛い。そして重い。
 今も私の右手とアイツの左手は手錠で繋がれている。その関係で、私はアイツの隣に座っているけれど、アイツの顔は何処か余裕があった。すると、アイツは喋り出した。
「従妹なんだ」
「は?」
 アイツから突然告げられた言葉に、成合さんを除いた全員が驚く。いや、従妹って何処かで聞いた誰かと誰かの関係のような気がするんですけど。
「ちょっと待ってよ。稚香子と原田君が従兄妹ってことは……」
 実夏が驚いたように口をはさむ。
「……あぁ。佐久間のご想像通り血縁関係はないが俺とお前は親戚だな」
 そうだ。実夏と成合さんは従姉妹ってあの日言ってなかったっけ?ようやくそのことを思い出しても、今までのことがそれだけで解決されるわけもなかった。
「別に今時、従兄妹どうしでも付き合っている奴等もいるんだから、それだけじゃぁ説得力ねぇぞ」
「だろうな。まず従兄妹という点でも信じてねぇって顔しているし」
「当たり前だ!こうも親戚って奴等が何人も学校にいて溜まるか!」
 その点は私も信じられなかった。嘘ではないと思うけれども信憑性がなかった。
 すると、アイツは何処からともなく写真を出してきた。それには顔がそっくりな綺麗な女性が2人と小さい男の子と女の子が写っていた。私には、綺麗な女性の顔には見覚えがあった。
「……おばさんが2人?」
 間違いなく1人はコイツの母親である。だが、母親そっくりな人は……
「おばさん?これって1人は稚香子のお母さんってわかるけど……もう1人は?」
 実夏の言葉から推測するに、1人は成合さんのお母さんで間違いない。そして、もう1人はコイツの母親だ。
「……オイ、どういうことだよ」
「どうもこうも親戚だって言わないと信じてもらえそうにないから俺達の子供のころの写真だよ。それと後ろにいるのは俺達の母親で、俺達の母親は双子だからそっくりだろう?」
 とても合成写真とは思えないその写真から、それは間違いないだろう。
 ってことは、この二人は本当に従兄妹なんだ……そのことを知ってなんだか全てが馬鹿みたいに思えてきた。
 今回のことは全部、この2人の家庭の事情に巻き込まれただけなんじゃないだろうか。親戚ならば、別に家にいようがおかしくないわけで……私だって小さい頃だけど、親戚の家に転がり込んでいたことも多かったのも事実だ。
 じゃぁ何?本当に今回は私達が騒ぎたてただけの騒動だったわけ?まぁ、二人が付き合っているんじゃないかという疑いが晴れたわけじゃないけれど、勝手に騒ぎにしたのは私達のほうかもしれない。
「あぁ……頭痛い。だったらあの日どうして成合の家にいたのか説明してもらおうか。そして、次の日には高志の家に成合がいた理由もな」
「そんなの互いに用事があったからに決まってんだろう」
「ふざけてんのか!お前は!!」
 誠人が反論する。そんな答えでは此処にいる誰もが納得するわけもない。私はあえて黙っていた。だって、いつかのように自分を忘れて暴走してしまう可能性が少なからずあるからだ。いつ感情的になってしまうかわからない。
「……本当はあまり喋りたくないんだけどな」
「それで俺が納得するとでも思っていたのか」
「……思っていない」
「だったら話せ」
 有無を言わさず誠人はコイツに追及する。アイツは顔を渋らせて視線を成合さんに移していた。
「稚香、本当に構わないんだな」
 学校では“成合”と呼んでいたけれど、家では名前で呼ぶのですね。この2人に繋がりがあるってわかっているからそれは全然気にしていないんだけど、なんだか胸の奥にチクっときてしまう。たかが、コイツが成合さんのことを名前で呼んでいるだけなのにどうしてこんな風に思うか謎だった。
 成合さんはゆっくり首を縦に振った。でも、その顔は何処か深刻そうで本当は喋りたくない内容だったのかもしれない。
「俺が稚香の家に居た日は法事だったんだよ」
「法事って……誰か亡くなったの?」
「あぁ。俺達の祖母がな……」
 コイツはそれからあの日、何があったのか全て話してくれた。
 そもそもあの日は法事だったらしく、生徒会をサボって学校を早めに帰ったあと夕方から参加したらしい。そんなことならちゃんと理由を言っておけば生徒会をサボる必要もなく皆納得したと思うんだけど……とか言う気にはなれなかった。
 法事も大方終わった後、コイツと成合さんだけ先に帰ったらしい。それが、自分の家ではなく成合さんの家だったのは、成合さんがとてつもなく取り乱していただったからだという。
「コイツは元々おばあちゃん子で、祖母の看病を理由に最近学校を休みがちだったんだよ。家庭崩壊気味だったし、稚香を守ってやっていたのは俺達のばあちゃんだったんだ……」
 話を聞くと、成合さんの家庭では成合さん母親と父親の仲が数年前から悪いらしく、どうにか夫婦という関係だけは続いていて、家庭は冷めきっているからか数年前から成合さんは祖母のところに行っていたらしい。さらに成合さんの父親は成合さんに暴力をふるったりしていたらしく、一時的に引き離すことが良いという結論がに達したからで、学校に行っていないのは、父親の暴力による怪我が酷かったからだと言う。
 そんな話をアイツは表情を変えずに淡々と話していた。その様子が何処か恐ろしいと感じていた。普通はこんな話しをする側も聞く側も普通ではいられない。なのに、平然としている。
 少なからず事情を知っていたと思う実夏にしても知らない箇所が何点かあったらしく驚いている様子だった。
「あの日はまだ、ばあちゃんが死んだということに動揺していてとてもじゃないが1人にしておくのはできなかったんだよ。だから俺が稚香の傍についていたんだ」
 そして、法事には成合さんの両親は来なかったらしい。二人とも仕事で、連絡だけはしているらしいが、重要な仕事があるからと言って二人とも帰ってきていないという。
 ふざけた親だと思うと同時に、その話が本当ならば法事とか葬式とか大変だっただろうと思ってしまう。当事者が1人いないだけでも仕事の量が変わるんじゃないかと思えたからだ。
「まさかあの日に仁美たちがやってくるなんて思わなかったからな……」
「本当にあの日、稚香子に何もしてないでしょうね?」
 実夏が強く言い放った。これで何かしていたら犯罪者間違いなしだ。
「するか!俺がするとしたら仁美にだけだ!」
 その台詞に今まで黙っていた私は手を出した。思いっきりアイツの頭を殴ってやった。と言っても、利き手とは逆の左手で殴ったのでどれだけ痛いかなんてわからない。
「アンタ、何どさくさにまぎれて変なこと言ってんのよ」
「事実を言ったまでだ。何が悪い」
「なんですって?」
 コイツの言動には本当に頭がきてしまう。いい加減慣れたほうがいいのかもしれないが、こんなのに慣れた日には私の身が持たないような気がしてならない。
「落ち着けって。暴れるのは全部の話が終わってからにしろよ」
 誠人がそう言ったから、私は納得いかないが大人しくすることにした。そうだ。全部話したらボコボコにしてやりたい。学校でのことも全部含めて、コイツを殴らないと気が済みそうにない。

2010/7/11

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