落ち着けと言われても落ち着けない。 コイツの変態発言の1つ1つにいちいち反応していたら身が持たないと分かっているのに、ついつい反応してしまう。 今後は我慢しよう。大人の対応を取ることに決めた。 話はさらに進む。あの日の出来事を頭に浮かばせ、コイツの会話と合わせてみるが、何一つ矛盾らしき点はない。あぁ、本当に私達が勝手に暴れただけらしい。 「よし……あの日、高志が成合の家に居た理由は分かった。じゃぁ、次の日はなんだよ?」 「葬式で、終わった後、俺んとこに集まっていたんだよ。今後のこととか話しあう必要があったからな……」 「今後のことって……?」 人がなくなれば、その後片付けは大変だろう。遺産などの相続問題もあるだろうし、他にもいろいろとありそうだ。 詳しくは知らないけど、人が亡くなった後ってやることとか多そうだし…… もし誰か、身近な人が亡くなった時は悲しい気持ちの中で葬式とかをやんないといけないんだろうな。 「……さっきも言っただろう。稚香のことだよ。ばあちゃんが亡くなって、稚香をどうするかってこと……」 コイツの発言で、空気が一層重くなってしまう。自分と関係ないこととはいえ、自分と同い年の子がそんなことを考えないといけないという事実を受け止められないのかもしれない。 実際には、孤児や親がいても暴力を受けている子なんてたくさんいる。しかし、目の前にそんな子がいるというのは考えたくなかった。 都合が悪くなると逃げ出したくなってしまう。自分の悪い癖だと分かっていても、やはり逃げたいという気持ちには変えられない。 家庭内暴力もニュースとしてしか受け止められないところもあって、成合さんがそんな目にあっていたなんて考えたこともなかった。 一層重くなった空気の中では、誰も喋ろうとはしなかった。そんな中で口数が今まで1番少なかった成合さんが口を開いた。 「……本当にごめんなさい。たっちゃんとのことを誤解されちゃったようだけど、本当にそんな関係じゃないし、全部私がいけないの。たっちゃんに甘えていたから、神野さんが嫉妬しちゃったんだよね?」 「はぁ?」 ようやくまともなことを喋ったと思ったら何か飛んだ勘違いをしているように聞こえた。こないだもりっちゃんに私が嫉妬しているみたいなことを言われたような気がするけど、何をどう解釈したら嫉妬になるのか知りたい。私自身が意識していないことなのに、どうして周りはそんな風に捉えてしまう。そんなことを一切思っていない私にとっては呆れるほかない。 「だって話し聞く限りそうしか聞こえないんだけど……」 「……ねぇ、成合さん」 「はい」 きょとんとしていた成合さんに、私はふっかけた。周りの皆は何も言わずに様子を見ている。顔を恐る恐る見ると呆れ顔そのもので、何に呆れているかなんて想像できた。 どうせいつものごとく、私に対して呆れているんでしょう。 自分で言うのもなんだが、どうしていつも私に呆れる。呆れる要素なんて何1つないのに…… 確かに自分が鈍感だということも、なんだかんだで理解しているつもりでも、そんな顔で見られるのはいらつく。でも、そんなことを口に出すわけにもいかないわけで。 「何をどう考えたら、そんな答えが出てくるわけ?」 「答えと言うのは?」 「……なんで嫉妬とかになるの?」 真顔で尋ねた。別に嫉妬がいけないんじゃなくて、自分でも言い難いけど、私の行動が嫉妬が言動だったということを認めたくない。 「仁美!!お前、誰がどう見ても100%嫉妬と答えるぞ!」 「なんでアンタが答えるのよ!私は成合さんに聞いているの!」 答えたのは誠人で、本当にイラつく。アンタが答える理由なんてない。それに、それがたとえ回答だとしても、逆にムカつく。 絶対に“100%嫉妬と答える”なんてあるわけがない。というか、現に私は嫉妬なんかじゃないって認識しているわけで……アレ、そもそも嫉妬ってどういう意味だったかわからなくなってきた。 「だって話し聞く限り嫉妬そのものなんだけど……」 「……ねぇ、誰から話し聞いたわけ?」 「たっちゃん宛ての田中くんとか長谷川さんとかからのメールを読ませてもらって……」 私の行動が誠人やりっちゃんから全てコイツに漏れていたなんて考えていなかった。でも、この2人にならあり得そうで何も言わないでおこう。そもそもの原因は私であるのは間違いないことだろうしね。 「わかった。もうこの件はこれでおしまい!私の勘違いで終わりで結構よ!」 もうやけだ。ここから逃げ出したい。穴があったら入りたい。 無意識のうちに私はドアに向かっていたが、途中で前に進まないことに気づく。 「何処行くんだよ、仁美」 「……帰る以外に何があるの?」 「帰れねぇだろう」 此処でようやく私の右手に手錠があったことを思い出す。糞兄貴!早く、戻ってこい! 無駄だとはわかっていても、早くこの場から逃げたくて無駄な抵抗をしてしまう。前に進もうとしても右手が思うように進まない。 そして逆に引っ張られ、私は足を外してしまった。 「ぁ……」 転んでしまうと思った途端に、アイツが私を受け止めてくれた。 「彰人さんが戻ってくるまで大人しくしとけ。嫌なのはわかるけどさ」 「……わかったよ」 兄貴が戻ってくるまでは、大人しくしときましょう。えぇ。これ以上、何があってももう私はリアクションを起こしはしない。心に誓った。 その様子を見ていた誠人と実夏、それに成合さんの顔を見るとなんだかにやにやしていた。 「皆さん、その顔は一体何なの?」 「うん?嬉しいからに決まっているでしょう?」 実夏があっさりと答えたけど、何が嬉しいのか全くわからない。 私とコイツは元いたところに座りなおすと、誠人が先ほどの話を続けた。 「で、葬式後に話し合いが当日行われていた……だけじゃ説明がつかねぇぞ?」 「だろうな。稚香のことで話し合いが熱くなってな……あのときチャイムに気づいたのが稚香と俺だけだったんだよ。そして丁度あのとき俺の携帯がなってしまって、玄関のほうを稚香に任せたんだ。まさか、仁美達だったとは思わなかったし。本当に、いろんな意味でとばっちりあったようなもんだ……」 「ちょっと待て。だったらなんで親戚だって、その場で言わなかったんだよ」 直ぐには信じられないかもしれないが、そう言えばよかったのかもしれない。わざわざ今日まで引っ張ることもなかったはずだ。 「……言えるかよ。学校では今まで他人のふりして過ごして来たっていうのもあるけど、ばあちゃんが亡くなっていることを言いふらすのもどうかと思ったんだよ」 人が亡くなってしまったことを誰かに告げるのは嫌な気分になるのは当然の用な気がした。ましてや、成合さんはお祖母ちゃんっ子だったらしいし、あの日にアイツがいた理由が成合さんが取り乱していたからだというし……なんとなく納得できる。 「……そっか。なんか本当にごめん」 「え」 私が謝ったことに以外だったのか、コイツは驚いているようだった。 目を大きく開き、唖然としている。 「……私が大騒ぎをしなければ、こんなことにならなかったのかなって思ってね」 「まぁ、そうなるな」 コイツはすんなりと納得する。 全部悪かったと正直に思える。その行動が“嫉妬”かどうかは別としても、皆を巻き込んでこんな騒動にしてしまったのは本当に反省しなければならない。 もっと私が落ち着いて客観的に見れば、大騒動にはならなかっただろう。 「で、稚香子はどうなるの……?」 実夏が心配そうに聞いてきた。やはり、実夏も成合さんのことは心配なのだろう。 事情を少ししか私だって成合さんのことが心配だ。いくら親がほとんど帰らないからといって、このままにしておくわけにはいかないだろう。 「葬式の日に、稚香の母親が戻ってきてくれたんだ。通夜には間に合わなかったが、葬式は参加しないといけないって思ったんだろうな。俺達家族だけの一存で稚香をどうするはできなかったから、丁度良かったんだけど」 話は続く。あの日は、成合さんのお母さんとコイツの両親とで話をしていたらしい。でも、一向に答えなんか見つからなかったという。 成合さんのお母さんもこの状況はまずいということは前からわかっているらしく、何とかしたいと思っていたらしい。 「まだいろいろ決まってないけど、離婚すると思う……」 「離婚?」 「あぁ。稚香は母方のほうで引き取って、しばらくは俺達と一緒に暮らすことになるっていうのが一番良いんじゃないかって話している」 「そっか……おじさんのところにいたら、稚香子が傷つくだけだもんね……」 父親に暴力を振るわれていたらしいから、それが一番良いのかもしれない。夫婦仲にしても、夫婦という関係を続けているだけであったらしいし……離婚しても問題ないのかもしれない。ただ、離婚ということで周りがどんな目でみるかわからないし、再婚をしたいと願うなら、年齢的に厳しくなる。 複雑なことが絡み合っているせいで、なかなか離婚という結論にいかなかったのかもしれない。 「そういうこと。稚香のこともあって、話したくなかったんだよ。これが今回の全てです。はい、質問がある方はどうぞ」 そう言って、締めくくった。誠人や実夏がいくつか質問していたが、納得のいく回答を得られているようだった。 ただ1つだけ、私の中には疑問が残っている。2人の質問が終わるまで私は待って、それを聞いてみた。 2010/7/25 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |