私の疑問。それはただ1つ。誠人や実夏の質問でさらに納得ができるけど、そんなことよりも私は知っておかなければならないことがある。
「一体いつから兄貴が関わっているかが知りたいんだけど」
 話を聞く限り、兄貴との接点が見えない。あの兄貴のことだから、知っていてもおかしくないような気もするけれど、兄に情報を流した人物が知りたい。
 ストレートに聞いたのに、アイツはその返答を渋っていた。
「……俺ではない」
「は?」
「彰人さんのほうから、連絡してきたから知らない」
「じゃぁ誠人、アンタ?」
 兄貴とよく連絡取り合っているみたいだし、その可能性は否定できない。
 とりあえず誰か判明しないと今後も情報を流すんじゃないかと思う。
 あのシスコン野郎は私の情報をどういった手段で集めているのか、いい加減知る必要があると感じたからだ。小さなことまで知っているから、すぐに助けを出してくれるけどそれが迷惑になることもしばしばある。
 例えば、知られたくなかったことまでも知っていて兄貴に泣かされたことも何度もある。兄は兄だから当然といった感じだった。でも、今は騙されない。
 絶対に私に身近な人が兄に情報を与えるに違いない。
 兄が大学に進学してからはほとんどなかったけれど、これは良いチャンスに違いない。今後何か起こっても、必要以上に兄貴と関わりたくない。
 自分の問題は自分で解決したい。手を貸して欲しい時だけ、力を貸して欲しい。
 わがままなのかもしれないけど、事あるごとに兄の登場は私を悩ませる。
「違うけど。このところ彰人さんと連絡取ってないし」
「じゃぁ一体誰が……」
 するとアイツと誠人は視線を私から逸らした。
 コイツ等、誰が流しているか知っているってわけね……
「隠さずに答えろ」
「なんのことかさっぱりわからん」
「……しらばっくれるな。知っているなら答えろ」
 今を逃せば今後知ることなんてできない。絶対、兄貴が何かと手を回すに決まっている。
 必要最低限でしか兄貴と関わりたくない私の気持ちを尊重して、シスコンを卒業してくれるのが1番良い。けれどもあの兄貴のことだ、「俺様が好きなようにして何が悪い」って言うに違いない。
 兄の存在が恐ろしくて私に教えられないのかもしれないけど、教えてくれないと私が困る。
「知っているが、教えられるわけがない」
「なんだと……?」
「まぁ、彰人さんの彼女が教えていると思うけど」
「だったらその彼女が誰か教えなさい!」
 夏祭りの時にも教えてもらえなかった兄貴の彼女。
 兄貴に直接聞くことができなかったから、今でも私は知らない。そもそも兄貴は女の子で遊び過ぎて、彼女なんかいなかったのにどうして彼女ができたのかも謎。
 昔、兄に1人に絞らないのかと聞いたことがある。その時兄は、1人に絞るなんて女の子が可哀想と言っていた。だからてっきりある程度、将来のことを考えてからじゃないと彼女を作らないと思っていたのに……大学に入ってコレだから驚く。
 しかも、りっちゃんも誠人もコイツも知っているようで、私だけ仲間外れのところがさらにムカつく。
 兄貴のほうから教えてくれるわけもなく今日まで過ぎているが、いい加減教えてくれたっていいと思う。
「教えていいなら教えるけど、夏祭りの時も言ったろう?彰人さんから相手が誰か言うなって」
「本当にムカつく!!!兄貴のことなんか気にせず、言え!」
 いくら兄貴に逆らえないからって、私にだって権利がある。プライバシーの侵害をいつまでも黙認しているほど、私は易しくない。
「まぁまぁ仁美、落ち着いて。神野先輩が関わってほしくないって言う気持ちもわかるけど、もうしょうがないよ」
「実夏までそんなこと言わないで」
「だけど、神野先輩は本当に最強だったからしょうがないよ」
「その最強の妹は凡人ですけどね」
「そういうことじゃなくて」
 あぁ、兄の権力がいかに大きいものか再確認することになってしまっただけなのかもしれない。
 もうこれ以上聞いても無駄なような気がしてならない。今度、兄貴の弱みを握った時に、脅して聞いてみよう。それしかない。でも、兄貴の弱みなんてそう簡単に手に入るものでもないけれど。
「……もう良いわ。終わってください」
「だったら、以上で今回のことは終わりで構わねぇな」
 もう全部私が悪かったで構わないわよ。なんであんなに大騒ぎしたかなんてもう忘れてしまったけど、あのときの感覚が嫉妬だって知らない。認めたくないだけなのかもしれないけど、全部私が悪い。
 兄貴に誰が情報を流したかは絶対後日付きとめるとして、りっちゃんと兄貴は一体いつになったら戻ってくるのか教えてよ。いつまで私はコイツと手錠で結ばれていなきゃいけないわけ?
「本当にごめんなさい。私が弱かったから」
 成合さんがもう1度謝った。違う。成合さんは悪くない。
「違うよ、いけないのは私だから」
「……ありがとう、神野さん」
「仁美って呼んで」
「え?」
「……これから生徒会で一緒にやっていくんだし、仲良くしようよ」
「うん」
 女の子と仲良くできるなら、なるべく仲良くしたい。だって、アイツのせいで私は学校中のほとんどの女子の敵になっているからだ。
 成合さんなら、私をそんな目で見ることもないだろうし、女の子の友達がほしい。男友達ならたくさんいるけど、やっぱり女同志じゃないと話せないこともたくさんあるし。今までりっちゃんや実夏に話してきた。でも、人数が多いに越したことはない。
「私のことも名前で呼んでください。稚香子でも稚香でもどちらでも構いませんから」
「うん。わかった」
 私はにっこりと笑顔を見せて答えた。
 あまり話したことなかったけど、良い人なんだなって思ってしまう。
 ホント、コイツと大違。なんていうか、おっとりとしているけどしっかりものっていうんだろうか、うまく説明できないけど従兄妹でこうも違うとは。実夏とは何処となく雰囲気が似ているような気もするけど。
 でも、その後にアイツが言った一言が私の考えをぶっ壊した。
 成合さん……いや、稚香はアイツとも実夏とも似ていなかった。別の意味で兄貴に近い。いや、兄貴以上なのかもしれない。ある意味恐ろしかった。

2010/8/10

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