「さすがに、どんちゃん騒ぎは近所迷惑だからしないけど、お母さんに此処にいること伝えているの?きっと心配しているわよ」 このまま泊まるようなノリになってしまいそうだけど、一応いることは伝えているし、大丈夫だと思うけど……やっぱり、正直に言ったほうが良いのかと少し考えてみる。 状況が状況なだけに伝えたくないのも事実だけど、このままコイツの家に泊まるのも後から何かと問題になってくるのも目に見えている。 「……大丈夫です」 兄の無断外泊を許しているくらいだもの。きっと私も許してくれる……わけがあるわけない。手錠に繋がれたままだし、頭の回転はいつもに増して最悪な状況で、どうすればいいかの最善の答えは出てくるわけがない。 「大丈夫じゃないわよ。仁美ちゃん、女の子なんだから」 ……生物上は女でも、性格は男だとよく言われてしまうのはこの際黙っておこう。 おばさんが心配するくらいだし、母も心配しているかも知れないと一瞬でも思ってしまう。あの母が私を心配するのかと疑問なのだ。 「……でも、この状況を」 説明したくない、後に続くはずの言葉がなかなか出てこない。 「仁美ちゃんがそんなに嫌なら私のほうから電話するわ」 「それもそれでやめてほしんですけど……」 わがままを言っているようだけど母に喋りそうで怖いからだ。母の耳に入った瞬間、どんちゃん騒ぎをやりましょうっていう話が元に戻るかもしれない。 「なら電話しなさい。いいわね」 「……はい」 大人に逆らうのは良くないとしぶしぶ子機を受け取り、家に電話をかけた。 なかなか電話にでないので、12時前とはいえもしかしたら既に寝ているかもしれないと思った瞬間、ようやく電話に出た。 『仁美でしょう?もう遅いわよ』 「……ごめんなさい」 私だとすぐにわかったようだ。声は怒っていない様子だけど、すぐさま謝る。でも心配していたのには少し驚いた。 『今日はどうせ高志君の家に泊まるんでしょう?別に連絡なんか必要ないけど、そういうのはちゃんと報告しなさい。いいわね?』 「わかりました」 『あーくんはもう大人だし男の子だから無断でも構わないけど、仁美は女の子なんだから連絡は入れなさい』 「……はい」 今回はさすがに私が悪い。だから大人しく指示を聞く。女の子だからっていうのは少し差別なようにも聞こえるけど、実際男と女じゃ扱いが違うのも当然だろう。 手錠のことは話さないまま電話を切った。よし、邪魔者その1の母の排除は完了だ。 子機をおばさんに返すと、今日はどうやって寝ないでいるか考える。何があっても一緒に寝たなんて事実をつくるわけにはいかないのだ。 「今日はゆっくりしていきなさい……といいたいところだけど、そういうわけにもいかないようね」 「そうですね……」 「俺、眠いんだけど」 横にいるコイツが欠伸をしていた。昨日まで葬式などでバタバタしている感じだったから疲れているかもしれないけど、寝かせるわけにはいかないんだよ。コイツだけが寝て、私だけ起きているのも後で何かと誤解を招くのが目に見えている。 「寝るな!私を助けるために副会長にしたなら、本気で起きろ!」 いろいろと語弊がありそうだけど、とにかく起きてもらわないことには何も始まらない。 私を副会長に指名した時に、助け舟とか言っていたような気がするから、私を助けるために起きていてもらわないと本末転倒だ。 「仁美、もしかして誘ってる?」 「誰が誘うか!」 コイツのペースに乗せられたら、後でどうなるかなんてわかったこったじゃない。 少し落ち着こう。落ち着いて朝まで乗り切ろう。 「眠らないように、一晩中課題しようか」 今の格好は制服、さらに今日の分だけだけど勉強道具も手元にあるのだから、課題やったっていいじゃない。2人でやれば直ぐに終わるし……いや、直ぐに終わっちゃうのはまずいんだけどさ。 「はぁ?課題なんて数時間で終わるし。そもそもある程度手を抜いてもバレやしないんだから、課題なんてやるだけ無駄だ」 かちんとくるが、コイツは元々天才型だ。私と違って努力型なんて思えない。いつも毎日課題に苦しめられている私を傍から笑っていたに違いない。 中学までは成績が悪かったのに、中3のときに一気に伸びてきたんだから、天才型に間違いない。ホント、私と同じ今の高校を受験するって聞いた時もふざけるなと思ったのに、合格したと聞いたときはもっと驚いたし……今じゃぁ、どんなに努力しても試験の順位はコイツより下のことが多くなった。 陰で努力しているのかと少しは思った私が馬鹿だった。 コイツがやった課題が常に完璧に見えたが、実際は手を抜いてやっているという事実に怒りを覚えそうだ。高校生ならば、ある程度は手を抜いてやるのが常識でしょうが、そんなの関係ない。学問を愚弄するものは許せない。 「アンタ、ムカつく」 「俺から言わせてみれば、常に懸命な仁美に感服だけどな」 「……あっそ」 そんなことで感服とか言われても嬉しくない。実際いつも負けているのだから、ただの慰めにしか聞こえはしない。 「まぁまぁ二人とも落ち着いて。勉強でもいいけどさ、ゲームとか楽しいこともしようよ」 稚香が私とコイツの間に入ってきた。勉強の方面に頭が傾いたけど、ゲームとかで時間を潰すのもありだろう。いや、勉強よりもゲームなんかの楽しいもので時間を紛らわしたほうが良いに決まっている。 テレビをみるっていう選択肢もあるけど、私達3人が見たい番組なんてあるかわからないし。 おばさんには悪いけど、夜中騒がしくなる可能性がでてきた。 「よし、勉強じゃなくてゲームしよう。でも、なんかソフトあんの?」 もう最近はゲームなんてしたことがない。携帯型ゲーム機にしろ、家庭用ゲーム機にしろ、しばらく扱っていない。小学生のころははやりのロールプレイングゲームは滅茶苦茶やりこんだりしたけど、忙しくなった今ではそんなこともなくなってしまった。もともとゲームがうまかったわけでもないから、今やることになっても下手なのは目に見えている。 「ちょっと古いけど、まぁいろいろとね」 「へぇ……」 そのゲームの持ち主がアイツか稚香なんて関係ないけど、そんなに一杯あるんだと少し呆れる。ゲームって楽しいけど、なかなか抜け出せないところが悲しく感じてしまう。1度プレイし始めるとクリアしないといけないって思ってしまうのは私だけだろうか。 稚香がゲームソフトを何本か持ってきて並べてみる。いくつか知っているタイトルのものもあるが、ほとんど知らない物ばかりだ。 「人生ゲームでもしてみる?滅茶苦茶長く時間がかかるように設定してさ」 稚香の気ままな発言に私とコイツは乗った。 でも、この人生ゲームに本気になりすぎてしまった。ゲームだとわかっているのに、何故かリアルで起こったようなイベントが次々と発生してしまい、そのたびに笑ってしまう。昔やったことのある人生ゲームってありえねぇー!とか言いながらやった記憶しかないのに、この人生ゲームは何処かリアルがある。 人生ゲームにのめり込み過ぎて、ようやく全員がゴールしたころには日が昇っている時間だった。 あと数時間で、この手錠とおさらばだ!それが嬉しいはずなのに、何処か心の奥底で寂しいと感じている自分がいるから不思議だった。 2010/11/14 Copyright (c) 2010 Akari Minaduki All rights reserved. |