りっちゃんと兄貴の抗争は続く。何度も原因を尋ねたけれど、誰も教えてくれなかった。仁美は知る必要がないよ、とか言われちゃって……喧嘩をしているように見えるから仲裁役を買ってでようかと思ったのに、それも必要ないとかアイツに言われてしまった。
 アイツにだけは言われたくない。ただ黙って見ているのも問題だと感じてしまう。美輪先輩もアイツも気にする必要がないと言って軽くあしらう。稚香にも聞いてみたけれど、稚香曰く、首を突っ込まないほうがいいとかなんとかで……結局私だけ仲間外れだ。仲間外れに頭を来るなどはない。だっていつも私だけが仲間外れになることが多いからだ。しかも、兄貴が絡んでいるとなると私は除け者扱い。兄貴曰く、妹に知られたくないことはたくさんある、とかなんとか言っちゃっているけれど、兄貴は全てオープンな状態で全く納得できないが、これが兄なのだから仕方がないといつも諦めている。しかし、りっちゃんが関係しているからか、今回は諦めきれずにいた。
 その後、キャンプらしくいろいろなことをやったけれど、りっちゃんと兄貴が仲直りしたようなには見れないまま、日が暮れて行った。キャンプは本来楽しもののはずなのに、二人のあからさまな喧嘩にどこか楽しくない。
 途中から私も原因を知ろうするのを半分諦めた。結局誰に聞いても同じ結果だったから。
 アイツと美輪先輩は完璧に兄貴の味方である。美輪先輩は兄貴と対抗できるけれど、今回は大人しくしているようにみえる。兄貴の問題だから手を出していないのかもしれない。いつもなら直ぐに仲直りさせようと仲裁しているはずなのにどうしてだろう。
 夕食の時も昼食と同じく、りんちゃんと兄貴の仲は悪かった。
 夕食作りのときのりっちゃんはいつも通りに見えたのに、兄貴と顔を合わせた瞬間に機嫌が悪くなってしまった。昼食と同様にアイツと兄貴と美輪先輩は何処かに消えていていなかったかもしれないけど。
「いただきます」
 りっちゃんの声音には未だに怒っているのが明らかである。
 原因がわからない以上、どうすることもできないんだけど……この様子に不快に思うのは私だけのようで、残りの皆は黙々と食べている。黙って見過ごすようなことは普段しないけど、此処は見過ごしたほうが良いのかもしれない……
 自分がとりたい行動ができないのは歯痒いけれど、たまには大人しく見守るのが大切だと思って手を引くことにした。

「そろそろ寝るためのテント割りを発表します」
 辺りが暗くなってきて兄貴が意気揚々と声を挙げた。
 テントは兄貴達が組み立ててくれたのが3つもあるんだから、体が大きい男どもが2つと女子が1つでいいから、別に発表をするまでもない。
 そんなことよりも年頃の男女が同じテント内っていうのも問題でしょう。一応全員未成年なんだから、問題ありありである。それ以前に兄貴が考えたテント割りが尋常だということをわかっている自分が嫌になる。
「発表なんかしなくても男女で別れて寝ればいいでしょう」
 私がすかさず文句を言った。兄貴の頭の中のことなんて知らないけれど、さすがにこれは止める必要がある。2人ずつにするつもりなら、必然的に私と兄貴が組むべきである。私は嫌だけどこの状況ではしょうがない。兄貴のシスコンぶりから言い出す可能性もあると考えたが、最近の兄貴を見ていると昔に比べて私をからかわなくなったからその可能性は低い。それと同時にどうしてそうなったのか不思議でしょうがない。
「そんなのつまらないだろう」
 兄貴がストレートに言い放ったのに対し、返す言葉を失ってしまう。兄貴、一発殴っていいかと本気で思ってしまう。
 私が殴ろうとするより先に先輩が兄貴を宥めにかかった。此処は私より先輩のほうが阻止できる気がして任せることにした。アイツは溜息を吐きながらこの様子を楽観視していて、稚香は稚香で眼が何処かの世界に飛んでいた。稚香よ、今ので何処どの世界に飛んだのかと不思議に思ってしまったが、それよりも、りっちゃんの機嫌が最高潮にまで最悪になったみたいでそっちのほうが怖かった。
「つまらなくないよ、彰人のつまらない基準はいつもわからないんだけど」
「聡も俺と離れて俺のこと忘れてしまったのか。それは悲しいな」
 今の兄貴の発言に私は一瞬のうちに引いてしまった。どうしてそんな発言をするのかわからなかったけれど、稚香はもうこの台詞にギャーギャー反応しそうな勢いである。私にそんな基質はないのに、そんなのがわかってしまうのが恐ろしく感じてしまうけど……
 そうね、稚香はこんな台詞が好きそうだもの。別に引いたりしないけど、兄貴が1人コントでもやっているのかと思ってしまう。
「気持ち悪いこと言わなくていいし、テント割りなんてしなくていいから」
「オイ、仁美。俺がそんなこと許すとでも思うか?」
「許しなんかいらない。ってことで私とりっちゃんと稚香でこっちのテント使って寝るからお休みー残りの2つは好き勝手に使って良いからね」
 兄貴の話なんてこれ以上聞いていられないと思って、りっちゃんと稚香の腕を引っ張ってテントの中にさっさと入っていた。テントの中にはちゃんと寝袋が3つあって、兄貴は一体何をしたかったのだろうかと疑問に感じてしまった。
 勝手にテントに入ってしまったけど、兄貴達は何も言わなかったし、このテントに近づく気配もない。
 先輩が無理やり連れて行ってくれたのかもしれないけど、とりあえずよかったと思う。年頃の娘さんに何かあったら大変だもの。しかも、今回の責任者は絶対兄貴だし。
「ホント兄貴の暴走には困ったものね……」
「いや、あれが神野先輩の伝説の所以だと思うけど……」
 稚香が少しおどおどしながら言っているけど、兄貴とこんな近くで一緒に何かするってなかったから気づいたのかもしれない。元々兄貴がどんな人物か知っている私だって、アレが全ての原因だってわかっている。
 わかっていても、それをどうすればいいのかわからないのが私の悩みだ。

2011/3/1

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