翌朝もそれは朝から酷いのなんのって……言葉に出せなかった。私の場合、一晩寝れば仲直りとかで済ませることが多いから、安易に考えすぎていたのかもしれないことに少し後悔をした。 りっちゃんも兄貴も意地っ張りみたいだからこんなに喧嘩が伸びているんだろうけど、いい加減仲直りしてもらわないと周りまで重たい空気になってしまう。大人しく様子を見ることなんてやっぱりできない。けれども私の干渉は頑なに拒んでいるところを見ると、何があっても私には原因を知られてほしくないってことだ。私が知ってしまったら損なことなんてないはずなのに、どうして2人は黙っているのか謎だった。アイツや稚香、先輩は兄貴による口止めがされているだろうから、絶対に喋らないと思う。なんとかして喋らせるのも手だろうけど、そんな手なんか頭に浮かんでくるはずもなく…… 「仁美、お前何百面相なんかしてんだよ」 「ぁ……アンタこそ何の用?」 テントの外で考え事をしていたからだろうか、いつの間にかアイツが私の隣に居た。 りっちゃんと兄貴のことで忘れがちだけど、コイツがそもそもの原因……いや、私が勝手に勘違いして暴走したことが原因だけどもまだまだ納得できないことはある。納得したところで今の状況が変わるとはとても思えないからもう半分諦めているのも事実だけれど。 確かに生徒会に入ってから嫌がらせは減った……ような気がする。コイツなりの助け船はどうやら本当に実行されたようであって、その効力がどれくらいなのかまだまだわかっていない。 「別に。仁美が突っ立っていたから声をかけただけ」 「……そう」 1人で何もしないで立っていたのに疑問を感じたからっていったところでしょう。 ついでだから、もう1度だけコイツにりっちゃんと兄貴のことを聞いてみよう。 「ねぇ、りっちゃんと兄貴……ホント何があったの?」 「お前もしつこいなぁ……」 「だって折角楽しいキャンプになるはずだったのに、なんだか楽しくないし……」 「だから、長谷川と彰人さんの問題だから、俺たちは首を突っ込んじゃぁいけないんだ」 そもそもその問題って何よ。 私だけが問題がわからないで、空振りな行動しているってことも自覚している。それでも、私だけ仲間はずれっていうのがやっぱり気にいらない。 「……あの2人に接点なんかあったっけ?」 「さぁな。まぁ、お前が鈍感でなければわかったかもな」 「だから鈍感っていうな!」 「はいはい……」 何かとすぐに鈍感っていう。確かに、私は鈍感らしいからしょうがないけど、もう何度も聞いたからわかっていることを繰り返し言わないでほしい。 でも、鈍感だから気づかないってどういうことだろう。 まさか、兄貴とりっちゃんが付き合っているってことは……いや、ありえない。兄貴にはいくらでも女友達いたから相当遊んでいる。そんな人物をりっちゃんが選ぶなんてありえない。それにりっちゃんが兄貴と付き合うってなんだか想像できない。だって前に聞いたりっちゃんの理想の彼氏像とは全然違うから。でも、もしも付き合っていると仮定すれば、一昨日の助手席への指名とか微妙に納得するようなしないような……りっちゃんか兄貴にこのこと聞いていいのか少し悩む。逆に馬鹿にされるか何を言っているのかと言われるかのどちらかだろう。 「まぁ、仁美の前で喧嘩することないって思っていたんだけどね……」 「どういうこと?」 「仁美に突っ込みされるのは嫌だってこと」 さっぱりわけがわからない。私に関わってほしくないなら、私の前で喧嘩なんかしないでおけばいいのに、喧嘩なんかしているから気になって仕方がないのに……! 皆は今、自由行動っていうことで好きなことをしているけど、りっちゃんは椅子の上で何かを考え込んでいて兄貴の姿は見えない。顔を合わせるたびに機嫌が悪くなるなんてどうにかしているよ。少なくとも私が車の中で眠る前までは仲良かったのに、どうしてこんなことになっているんだろう。 「それはなぜ?」 「秘密」 改めて頭に来てしまう。秘密とかいって私だけ仲間外れにされてこれ以上黙ってられるのも嫌だ。 「……なんでそう秘密ばかりなのよ!」 「俺が喋っていいなら喋っているさ……俺の後ろには彰人さんがいるってこと忘れるなよ」 「あの兄貴に屈するな!!ってことで喋りなさいよ!!」 つまり、兄貴が最強じゃなければ喋っているってことだよね? どいつもこいつも兄貴に逆らおうとしないのか本当にわからない。私だって逆らうのは無理だって分かっていても、兄貴が切れる寸前まで逆らって抵抗しているつもりだ。 「だから彰人さんからOKもらえば良いって言っているだろう」 「きぃいいいい!!どうして兄貴のやつも黙って何も喋らないのよ!ホントムカつく!!」 兄貴にも聞いてみても無意味だった。結局私は自分で知る方法はないみたいだ。それでも気になってしまうのが人の理性というやつなんだけど……どうしようもできなかった。 「諦めろよ。そのうち今回の原因を知る時が来ると思うからさ」 「そのうちっていつよ。ホントどうして私だけ仲間外れにするのよ……」 「彰人さんから言わせてみれば仁美がかわいいのが原因らしいよ。俺から見ても十分かわいいと思うし」 「ばっ…!アンタ何変なこと言ってんのよ?」 また変なこと言われた気がしてしまう。しかも“かわいい”とかいう単語に反応して顔が一気に真っ赤になっていることが容易に想像できてしまう。そういう系統の言葉が苦手なのは確かで、かわいいとか言われると悪寒が走ってしまうか、照れてしまう。でも自分はかわいくないから、ただの御世辞とわかっているんだけど……こう昔からの知り合いに言われるとなんだか恥ずかしい。しかもコイツの場合冗談でなく、本気でないのかと思ってしまったりすることがある。自分が自意識過剰ってこともわかっている。それでも、告白の後以降はなんとなく冗談としてとは受け取り難くなった。 アイツはにっこりと笑ったままでこの状況を楽しんでいる。完璧に私が困った様子を楽しんでいる。そんなに私のことが好きなのかと呆れてしまうが……私はコイツのことは好きにはなれない。位置づけは幼馴染で友達、というのが精一杯だ。これ以上進化することなんかたぶんないだろう。 待つ、とか言っていたけど、待たれても困る。私がコイツを好きになることなんてない。誰かに恋愛感情を持つなんてたぶんないはずだから。 「かわいいからかわいいと言って何が悪い。あぁ、お前もいい加減俺とお試し気分で付き合ってみない?」 「断固断らせていただきます」 「こういうところだけはかわいくねぇな」 そんなこと言われてもどうしたらいいかわからずに私は固まってしまった。 今は自分のことより、りっちゃんと兄貴のことのほうが重要でそれどころじゃない。コイツのことなんて無理だ、無視!関わると本当に碌なことはなかったのだから。 2011/3/5 Copyright (c) 2011 Akari Minaduki All rights reserved. |