私がりっちゃんと兄貴の関係を知った後に直ぐに二人は仲直りしたみたい。
 というのも喧嘩の内容がくだらなさ過ぎて、なんとも言えなかった。くだらないっていうのは言い過ぎかもしれない。りっちゃんは私のことを思って兄貴と喧嘩したらしいからだ。
 今回や以前から事の詳細を流していたのは、りっちゃんが主だったらしい。で、今回の件が終わった直後にキャンプに急に行くことにした理由に切れたらしい。元々キャンプではなく、デートの予定だったらしいけど、私とアイツの既成事実確認のために強制的に拉致状態で参加させ、稚香と先輩を巻き込んだことにも怒っていたとか。そもそもキャンプを決行すると決めたのが一昨日だとかで……どうして此処までスムーズにすぐに用意できるのか疑問だ。それは兄貴が兄貴である所以なのかもしれない。ちなみにキャンプをする理由を聞いたのが私が寝た後だったらしい。
 それにしても、デートの邪魔をしてしまったことに申し訳なく感じる。しかし、りっちゃんと兄貴曰く、クリスマスのデートの確約を取り付けたことのほうが大きな収穫だとかで……このカップルも私とアイツをくっつけさせようとしている馬鹿ップルなのは間違いなかった。
「なんかムカつく……」
 兄貴がキャンプをやろうとした理由を改めて聞くとムカつく。私とアイツをからかいたかったからとかふざけんじゃないって思いたくなる。あぁ、ホント頭痛い。
「仁美、怒らないでよ」
「……りっちゃんも何時から付き合っていたのよ」
「えっと……秘密」
「夏祭りのときには付き合っていたことはわかっているけど、なんかはめられていた気分」
 ついでだから兄貴に白状させた、どこから私の情報を得ているのかということ。先ほども述べたようにりっちゃんが主だったらしいけど、りっちゃんの他には誠人、さらには、アイツからも情報を仕入れたりしていたらしい。また、3人に非はないらしく、脅して無理やりはかせていたに近いとかで兄貴を殺したい衝動に駆りたてられた。3人の他にも情報提供先はあるとか言っていたが、これ以上は教えてくれなかった。一体誰から手に入れてんだよって突っ込みたいところ満載だ。
「あはは……ごめんね、知られたくなかったから」
 りっちゃんは惚けたように返答したが、やっぱり納得できなかった。

 衝撃の事実を知った後のキャンプは平和そのものだった。最初から、平和的に過ごしたかった私にとっては束の間の休息に近かったが、戦いは火曜日からだとわかっている。
 火曜日からまた戦いの始まり。確実に責められるのはわかっている。特になにもしていないから理不尽だって思いたいけど、今までだって十分理不尽な扱いを受けてきたのだからそれくらい平気だ。
 学校も恐ろしいものだが、約3カ月後のクリスマスにアイツとデートの約束をさせられたってことのほうが問題なのかもしれない。もしもこのことが学校で漏れたらアイツの親衛隊に殺される。今までの軽い虐め程度ならなんともないけど殺人事件に発展しそうなほどの問題を起こすのではないかと心配になる。親衛隊に邪魔してもらおうと思っていたのはこっちからどうにかして潰してもらおうとするからで、その場合は攻撃を受けないと思いきっていたが、こんなことになった原因を喋らないと認めてもらえないかもしれない。といっても、邪魔してもらうにも既にりっちゃんたちとのダブルデートが決まっているので、行動できない。潰そうとしてもきっと兄貴がいろいろな面から潰そうとするから私の行動を潰しにかかるに違いない。
 兄貴が関わってくる時点で、もう逃げられないのだからデートくらいしてやろうと思っている。でも、デートって……何をすればいいのかさっぱりわからない。少女漫画やドラマみたいなのが頭の中には浮かんでくるけど、デートなんかして何が楽しいのだろうか。もともと1人でいることを好んでいるからしょうがないのかもしれないけど、クリスマスイブにデートっていうのは、ベタにもほどがあるっていうものだ。実際、高校生がするクリスマスデートってなんだろう。まだ気が早いって気もするけど、とにかく探りを入れて対策を立てておかないと当日が怖い。
 さて、どうするべきか。
 改めて考える。だが、答えは1つだった。
 普通に生活しよう。何にも考えずに普通の学校生活を送って、クリスマスデートなんて忘れてしまおう。それが1番楽であって平和だ。
 私の中で単純な結論が出た。正しいのか間違いなのかわからないけど、火曜日以降のことをびくびくしていたって仕方ない。こうなったからには、行動に責任を持つしかない。(正確にいえば、責任はアイツのほうにあると思うけど)
「あ、火曜日以降は心配するな」
「は?」
 帰りの車の中、会話は特になく、ラジオが流れていた中で私の考えを見透かしたように発せられた兄貴の声が響いた。その声に全員が耳を傾けた。兄貴以外、眠たくて仕方がなかったのかもしれない。実際、キャンプでは疲れたと言っても良い。楽しかった半面、精神的にも肉体的にも疲れてしまったの。まぁ、兄貴とりっちゃんが仲直りしたことにより一層楽しめたからだけど。こんな風にはっちゃけることが少なかったら、久しぶりにストレス発散になったのは事実だ。
 で、帰り道に兄貴の突然の言葉。
 驚かないでなんて答えればいい。そもそも、兄貴がどうこうできるレベルではないと思う。一応、卒業生とはいえ、在校生を牽引できるほどの力が兄貴に残っているとはいえない―――ではなく、残っているのは事実だが、すぐには無理だ。
「俺に考えがあるから、仁美に何も起こるわけがない」
「ちょっとどういう意味よ」
 兄貴が何をしようとしているのか検討できない。それはアイツも同じようで、口は閉ざしているが顔は明らかに考えているのがわかる。
「まぁ、今までほっといて悪かったってこと」
「はぁ?」
 さっぱり意味がわからない。兄貴の考えなんか読める人間なんているのかと疑いたくなる。
「彰人、そんなことできるわけ?」
「おう!俺に不可能はない。まぁ、明日のお楽しみだな」
 兄貴はそれ以上何も言わない。何をするのかも想像できなかった。自信満々の兄貴の言葉を少し信用してみようと思ったのが、後の祭りだと知るのはその翌日だった。

「……一体、何の真似ですか?」
 学校来てみると、皆さんが持っているものは俗にいう学級新聞らしきもの。私のクラス学級新聞なんてありましたっけ?という疑問はさておき、無言の視線というのでしょうか、私がクラスに入って来た時点でクラス中の視線が私に向けられた。先に来ていたアイツも呆れたように学級新聞を眺めていた。
 黙ったまま、何も言わないクラスメイトに苛立ちを覚えながらも誠人が新聞を持ってやってきた。
「彰人さんもよくやるわ」
「へ?」
 新聞を受け取って記事を眺める。すると、そこには考えたくもないことが書かれてあった。
 正確に言うと、新聞ではなく脅迫状だ。しかも、学校ではもはや伝説と化している兄からである。さらに、兄の影響力は未だに続いているため効力は有効のはずだ。

『妹と高志のことは温かく見守れよ。何かしたら俺が許さねぇからな。 第29期 生徒会長 神野彰人』

 脅迫状事態はコピーだが、自筆の言葉と共に余計な写真。手錠で繋がれていたとき、我慢の限界で寝てしまった車の中でのいらないツーショット。写真の中では互いが肩に寄り掛かって寝ていた……って、本当にこんな風に寝ていたのか疑わしいが、糞兄貴の野郎、何考えてんだ。それより、何時の間にこんな写真撮りやがった?
 叫びたい衝動を抑え、どうすればいいか考えてみるが、答えなんか浮かばなかった。
「まぁ、事の詳細はあとでお前達に聞くからな」
 誠人にそう言われたけど、なんて答えればいいかわからない。それより視線が痛い。
 兄貴の野郎、何時の間にこんなものを用意して配布なんかしているのよ。りっちゃんのほうに視線をやると、りっちゃんはにこっと笑っている。笑いごとじゃない!!
 ……とりあえず、兄貴の言うとおり今後は平和に過ごせるのでしょうか。私は、そんなことないと思います。いくら、兄貴の力がまだこの学校に残っているとしても、逆に酷くなると感じます。

2011/4/7

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